赤一滴





  冬、朝の炊事場は冷える。
  以前は朝餉の支度を総司と共に行っていたが、総司が臥せるようになってから騒がしさが無くなり寒さが余計に増した気がする。
(気のせいだな)
  人一人いないだけでそう違う筈が無い。最近あまり見舞いに行けず総司に会っていないからそんな風に思うのだ。
  思い、悴み乾燥した手を冷水に濡らして鍋を持ち上げたところで斎藤の指に痛みが走った。
「?」
  線状に赤く血の付いた人差指を見、鍋を見て、鍋から出ていた古釘で指を切ったことを知る。
  舐めておけば治る他愛も無い傷だ。
  己の口に運ぼうとした斎藤の指を、不意に後ろから伸びた手が攫って行った。
「美味しそう」
「っ?」
  気配も無く突如背後に現れた総司は、舌なめずりする猫のような顔をしてぺろりと斎藤の赤い指を舐めた。
  血を拭き取るというよりも寧ろ押し付けて塗り広げるような舐め方。
「総司、そんな薄着で出てきては……」
  綿入も羽織らず、何故こんな早朝に態々布団を出て炊事場に出て来たと咎めようとして、言葉が止まった。
  指を咥える総司の、白い衣に劣らぬ蒼白な顔。――色褪せくすんだ髪。
  確かに其処に立っているのに、まるで死人のように気配を感じないのは何故なのか。
  斎藤の僅かな血液に一心に向けられる視線の中に、影のように暗く赤い輝きが不穏に揺れていた。
(まさか……)
  総司がゆらりと顔を上げる。
  その仕草に倣い徐々にギラギラと輝きを放ち出す総司の赤い眸に捕らわれていく。
「総司?」
  斎藤を真っ直ぐに見つめて切なげに総司が囁く。
「君が好きだよ」

  血の一滴まで。









朝起きたら沖田さんが羅刹化してました。みたいな?