甘い束縛





  障子越しに鴉の一声が明けを知らせ夜は終わる。
  背にぴたりと添う広く温かな土方の胸を名残惜しく思いながら、 斎藤は僅かに首を上げ声を掛けた。
「副長、……そろそろ部屋に戻ります」
  呼び名を土方から副長へと変えれば、二人の関係もまた戻る。
  副長と助勤、絶対なる信頼で結ばれた、けれどそれだけの関係。
「ん……ああ、そろそろ朝か」
  寝起きの掠れた声がふっと耳に掛かる。
  そんな些細なことですら昨夜の情事を思い出す浮ついた己を斎藤は戒めるが、 それを邪魔するように土方の指が髪の中に差し込まれた。ゆっくりと梳る。
「もう少しばかりいいじゃねぇか」
「ですが……」
  斎藤は迷った。
  本音を言えば心地良くて仕方が無い。
  頭を撫でる手が、首に掛かる息が、背を温める彼の肌が、まだこの儘でいいじゃないかと眠りに誘ってくる。
  斎藤は目を細めた。
(やはり空が白む前に部屋に戻らねば)
  何とかこの甘ったるい誘惑に抗おうとする斎藤に気付いたのか、 髪を梳いていた土方の長い指が、つと耳朶から頬へと滑り、斎藤の唇で止まった。
  何も言うな、と仕草で止められる。
  言葉を塞き止められた斎藤の、今度は顎へと指が動き、首筋を伝って鎖骨の上に手の平が止まった。
  そして昨夜のように、体を更に密着した状態へと抱き締められた。
  命の鼓動が二つ重なるような、きつい束縛。
「お前との朝は気持ちが良い」
  土方という人はこうやって、時々異様に甘みを帯びる。
「……俺もです」
  絡め取られるように負けて目を閉じた斎藤の背で、彼は柔らかに笑った。