Black Joke





「こういうのって全然分からない」
  愛してると告げ押し倒しそのまま事に及ぼうとしたザックスをベッドの上で見上げながら、 クラウドはただ静かにそう呟いた。
「分からない?」
「うん」
  うん、とつまらなそうな顔で頷いてからクラウドは、だってさ、と続けた。
「あんたは只欲情してるだけだろ? それは別にアイでも何でもないと思うけど」
「まあ……そうかもしんないけど」
「便利な言葉だよな。愛だの好きだの言えば言い訳になるんだから」
「まあ……確かに便利だな」
  仰るとおりで。
  言いながらもザックスは停止していた動きを再開し、クラウドの首に噛み付いた。
「ッ」
  クラウドは眉を僅かに顰め、また口を開く。
「……こういうことしても許されるし?」
「あ、許してくれんだ」
  口端を持ち上げたザックスの悪戯っぽい笑みを嫌そうに見つめながらクラウドは溜息を吐いた。
「今更。いつも許してやってんだろ」
  いつも。
  アイシテルだのなんだのと軽々しく口にしてはいろんな女を渡り歩くザックス。
  自他共に女好きを認める、そんなザックスがクラウドに迫って来たのはつい最近だ。
  一線を越えてしまったのは互いに酒の所為だと思っていたのに、何を間違えたのか、それからも度々体を求めてくる ザックスにクラウドは辟易していた。
  気持ちイイのは認める。が、ザックスの都合に振り回されているようで気分が悪い。
  アイシテルを言い訳に自分を抱くくせに他の人間との付き合いも決して断とうとしないザックス。
  ザックスの振る舞いはクラウドには全く理解の出来ないものだったが、女のような嫉妬心は起きなかった。 ザックスは間違いなく只の親友で、今はおかしな関係になっているものの、恋人なんてものじゃない。快楽を与え合う親友に過ぎない。
  そういう関係ならそれでもクラウドは構わなかった。ザックスが信頼できる大切な友人であることに変わりは無いのだから。
「でもさ」
   唇を貪っていたザックスの堅い胸板を押して離させてからクラウドは言った。
「やっぱりそういう言葉を簡単に言われるとムカつく」
   クラウドとて体の関係を続けるのは別に嫌ではないし、ザックスと男同士の恋人になりたいという気も無かった。
  だから、愛してるなんて言わなくていい。
   只の親友ならおかしな関係でも許してやれるのに、そんな中途半端な言い訳の言葉を使うから胸が悪くなるのだ。 ザックスがまるで恋人に囁くように、当たり前のように言うから、友人の筈の自分が軽くてぞんざいな扱いを受けて いる気分になる。
  それにザックスの言葉は何だってクラウドにとって大きく、強烈だった。
  ザックスの熱の篭もった言葉は夜だけでなく昼にまでクラウドを引きずり始め、このままでは日常のザックスとの 友人関係にまで支障をきたす気がした。
  困惑と共に腹立たしさも感じる。
「女の子と同時進行されるのも、正直嫌だ」
  自分を抱いた体が次の日何処の誰とも知れない女性を抱くのは、直接関係が無いとはいえクラウドに気まずさと抵抗 を感じさせた。
  体の組み合わせではあっちが正常でこっちが異常なのだ。物凄く間違っている気がする。
  ザックスの勝手で何故自分がここまで気を揉まなければならないのかとクラウドは何度も思ってきた。

  身を起こし、だからもうやめないか、と言いかけた唇はまた塞がれた。
  そこに柔らかな熱を残しすぐに離れたザックスは素肌の腕でクラウドを抱き締め、そっと囁く。
「じゃあ俺が女と別れたら?」
「は?ザックス、だからそういう……」
  出来もしないくせにまた軽口か、とクラウドは咎めようと身動ぎしたが、ザックスの力は強くクラウドの体を離さなかった。
  お前は離せない、と低く呟く声が耳元で聞こえ、クラウドは目を見開いた。
  まさか本気なのだろうかと困惑を隠せない。
「……本気か?」
「本気」
  窺うように尋ねたクラウドにザックスは即答し、クラウドは困って宥めるような声を出した。
「俺達は友達だろ?」
  ザックスは体を離してクラウドと向き合い、何やら考え込む表情を見せ、それから口を開いた。
「そう、トモダチ。恋愛関係じゃ勿体無いくらいの。だからまぁ、愛してるってのはお前への敬意みたいなもんだと思ってよ」
「敬意?」
「友達のくせに俺を欲情させてやまないお前への敬意?」
「なんだそれ」
  勝手に欲情してるくせに。クラウドは呆れたように笑った。
「で?」
  一変して真面目な顔をしたザックスがクラウドの顔を覗きこんだ。
「女と別れたら続けてもいいんだろ?」
  ザックスの言葉に驚愕を隠せない。本当に、本気だというのか。
「……お前、本当に俺を選ぶ気か?」
  勿論、と迷い無く返ってきたザックスの返事にクラウドは脱力し、そこまで言われてはとしぶしぶながらも了承する ことを余儀なくされてしまった。
  というより、単に流されてしまったと言った方がいいだろう。こういうザックスの小気味良さにクラウドは弱かった。
「……いいけどさ、でも、俺はそもそも別れさせたいんじゃなくて、してる時に余計なこと言うのをやめろって話をしてたわけで……」
  ばつが悪そうにぶつぶつ呟くクラウドを眺めながら、ザックスの方がすっきりしたように楽しそうに笑う。
「それは無理。だって言いたいし、言葉の意味はほんとの気持ちだし」
「ほんとの……ってそれは、……友達間じゃおかしいだろ?」
「じゃあ」
  ぐっと顔を近づけて
「レンアイ、してみる?」
  ザックスは挑むようにクラウドの目を見つめた。
  睦言を言うのはやめない、友達の範囲を越えた行為もやめない。それがおかしなことだと不満なら、この関係の名前を変えても構わない。
  呑まれたように目を丸くして一瞬固まってから、クラウドは溜息混じりに両手を上げて降参のポーズを取った。
「いいよもう、今のままで」
  レンアイ関係じゃ勿体ないんだろ、と確かめるようにクラウドが目を細めて見上げると、ザックスは満足げに頷いてクラウドを抱き寄せた。
  愛してる、と告げて愛撫を始めたザックスを、クラウドはもう止めることなくその背に腕を回して受け入れる。
「悪い冗談ならいいのに……」
  次第に荒くなっていく息遣いの合間にそんな呟きを漏らしたクラウドの頭の中で、これまで無味だったアイシテルがその存在を急激に主張し出すのを、クラウドは快楽と共に感じていった。