かつては何もない荒野だった場所に青年は立った。
あの頃ここから見えたのは魔晄都市であったミッドガルで、外からは生命の営みなどまるで見えなかったその場所には今、子供達のはしゃぐ笑い声が響いている。
穏やかな表情で風に吹かれた金糸の前髪を払うと、青年は目を閉じた。
鮮明に頭に浮かぶイメージがある。生まれた時から、いや、生まれる前から持っていた記憶だ。
ずっと昔に此処で二人の男が死に別れたこと。
黒髪の男の血は大地を流れ彼は星に還り、金髪の男は身に受けた罪の証を負いながら生き続けやがて自身もまた
命の奔流に呑み込まれる時が来た。
彼は安らかに願う。
“どこかで彼と巡り会えますように”
何故かつての記憶を有しているのかは分からない。しかしそんな理屈など青年にはどうでもいいことであった。
何年後の今日会おうと約束したわけじゃない。それでも今こそ願いが叶う確信があった。
体内に宿る昔の自分が感喜している。
こんなにも心が騒ぐのは初めてだ。まるでこの自分が急かされているよう。
青年は困ったように笑って彼に呼びかけた。
少し落ち着けよ、クラ――
「クラウド」
重なるように声がした。金髪の青年はゆっくりと振り返る。
聞いたことのない、だけど懐かしい声だ。会ったことのない、なのに会いたかった人。黒髪の青年が其処に立っていた。
「ザックス」
待ち人の名前を呼んだ瞬間にこれまでと比べものにならない欣喜が胸を支配し、青年の顔は忽ちに笑顔に変わる。泣き出したい程嬉しい想いが全身を走った。
「一応初めまして、だよな?」
記憶の中の彼と同じ精悍な面差しの青年がどこか照れくさそうに笑って言った。
「そうだな。俺達が会うのは初めて」
この"記憶"が無ければ出会っていたかも分からない。
でも、会えたのだ。約束などなくても、二人はこの丘にやって来た。
「外見あんま変わってないな、俺達」
「いいだろ? だからすぐに分かった」
初めて会うというのに?
当人以外は奇妙と感じる会話でも、二人にとってはごく自然な、しかし大切な確認であった。
彼らが、互いが互いであることを確認する為の。信じられない程の奇跡が此処にあることを感じる為の、大切な。
「外見だけじゃなく中身は?」
黒髪の青年が言った。尋ねながらも答えを分かっているかのように、楽しそうに笑う。
金の髪の青年は手を伸ばした。
「これから知っていこう。ずっと一緒に、生きて」
今度こそ、最後まで一緒に。
願いのような意志を込めて手を取った二人は、穏やかに微笑みながら丘の上に並ぶ。
此処は悲しみの丘。けれど希望の、始まりの丘となる。
星の命が繋いだ二人の眼下で、小さなたくさんの影が楽しげに力強く駆け回っていた。
さながら自由を描くようなその様子に目を細めた二人は共に歩き出す。
もう二度と自分を相手に託すことなく、ただ共に。