「殺してばっかりだな、俺」
床にずるりと座りこみ傍らに剣を置いてザックスが呟いた。
口に手を運び手袋を歯で咥えて抜き取る。その瞬間、微かに血の臭いがした。
それはつい先刻まで彼がその手で人殺しをしてきたのだという事実を如実に語る臭い。
ソルジャーとして前線で戦う彼が決して逃れることの出来ないものだ。
「まぁそれが仕事だけど」
自分で選んだんだけどさと軽く笑うザックス。
口の端を吊り上げただけの自嘲するような笑みはまるで何かを諦めているように見える。
戻ることを、だろうか。普通の人間に戻ることを。
彼が弱音を吐くことは本当に珍しい。
彼は俺がソルジャーになりたくて、それでもなれないことを知っているから尚更、ソルジャーとしての弱音を吐かない。だから今日は、それだけきつい仕事をしてきたのだと分かる。
俺の前で何処か遠くを見つめているザックス。思い起こすのは戦場の光景だろうか。
俺が見て知ってきたものよりもずっと、惨たらしい景色。
俺ももう分かっているつもりだ。例えソルジャーになれたとしても、憧れだけで勤められる仕事じゃないということ。任務で、心を殺し血に慣れて非情に徹しなければならないということ。
臆病ではいけない。強くなくてはならない。それは村にいた頃から自分に言い聞かせてきた言葉だ。何よりも自分の為に抱いた夢。
「俺はソルジャーになりたいよ」
静かにザックスに伝えた。
「ザックスみたいなソルジャーになりたい」
思ったよりずっと強くなった俺の語調に、ザックスの目が少しだけ驚いたように開く。
ザックスの綺麗な蒼い眼から目を離さないようにしっかりと見つめて。
「今もあんたが好きだから」
どんなに血塗られてても好きだ。
あの頃抱いた夢は今は少しだけ変わり始めてる。
それは只の憧れではなく、自分の為に持ち続けるものでもなく。
血臭を漂わせ悲痛を胸に抱くザックスを前に未だソルジャーになりたいと強く望むのは、共有したいから。
ザックスが今何を感じてるのか、何を思っているのか。もっと身近に感じて、分かりたい。
あんたの葛藤も苦しみも、全部共に抱えたい。
疲れたように落としたその肩を、その背を抱き締めたいから。
抱きたい背中に手を伸ばした。