defender





「殿下!」
  バッシュが叫び、その瞬間バルフレアは銃を撃ちながら駆け出していた。
   驚愕の表情で振り返るヴァンとパンネロが目にしたのは、走り込んでアーシェを引き摺るように抱きか かえながら地に倒れこむ バルフレアの姿だった。
  砂埃が舞う中、駆けつけたバッシュが鋭い剣技でもってモンスターを斬り裂く。
  今まさに正面のアーシェの腕を突き刺そうとしていた何本もの触手がバラバラと散らばり落ち、ピクピクと動きやがて 止まった。
  バルフレアは睨むような目でそれを見てモンスターの完全な死を確認してから、自分の腕の中の身体にさっと 目を走らせる。
  その身体に――アーシェに怪我は無い。
   ほっとする前に、いつも冷静で飄々とした男は自分で気付くことなくかっとなって怒鳴り出していた。
「、のバカやろう……っ! 腕が無くなるところだったぞ!」
  言った瞬間にゾッとした。背筋の寒気を感じながらバルフレアは舌打ちをして土に付けた肘から起き上がる。
  乱暴とも言える仕草でアーシェを引き上げ、突き放すと、バッシュが彼女を支えた。
「殿下、ご無事ですか!?」
  ヴァン達も寄って来る。
「大丈夫か、アーシェ?」
  アーシェは俯きながら「ええ……」と小さな声で答えた。
   少しよろけながら、ゆるりと腕を持ち上げてそっと握り締めた手を開く。
   銀の鎖に宝石の付いたネックレス。鎖は切れてしまっているが、ちゃんと手の中にある。
   アーシェは安心したように息を吐いて手を閉じた。
  アーシェの得物を拾いながら彼女のその表情を覗き見た フランは美しい曲線を描く眉を顰め、得物を彼女に渡しながら少しきつい口調で言った。
「今のは愚かな行動だったわ。……どうして?」
  その質問は、貴女は普段なら決してあんな愚かな動きをしないのに、と暗に問い掛けていた。
  モンスターの懐に飛び込みながら隙を見せるなんて。
「ごめんなさい」
  本当に申し訳無さそうに、 アーシェは項垂れて謝った。
  それきり何も口にすることなく黙り込んでしまう王女から、フランは諦めたように 視線を外す。
  彼女が何も話すつもりの無いことを悟ったからだ。
   そして話さなくとも大体の訳は解る。
   ネックレス――彼女にとって恐らくとても大切な物。
  鎖の切れたそれが身を離れモンスターの前を飛び、崖下に 落ちてしまうことを防ぎたくて、戦闘中彼女は愚かにも危険な行動をとったのだろう。
  バルフレアは思わず 「そんなに大事なら身に着けずしまっとけ!」と怒鳴りたくなった。
  が、額を 押さえて衝動を堪える。
  アーシェは項垂れながらネックレスの入った右手を左手で包み込んでいた。
  包み込まれているのは何か、バルフレアに はすぐに解った。
  失った人間への想いを、彼女は守っている。
  彼女は常に一緒に戦っているのだ。
  父王と、夫と、兄と、他の全ての失った人と。
「お前がもし命を落とせば――」
  バルフレアは 言い聞かせるようにアーシェに言った。
「手の中の其れも指輪も、持ち主を無くす」
“過去を守りたいならまずお前を守れ”
  バルフレアの言葉に、アーシェは泣きそうな顔で頷いた。









怒られるアーシェが書きたくて。
ネックレスは多分父か兄に貰ったもの。