愛した人の故郷は死都と化していた。
サリカ樹林から迷い込むように足を踏み入れたその土地は、地理的な知識が無ければ
信じられない程に異なる景色へと変貌していた。
緑豊かな大地に命育む水が溢れ輝いていたかつてのナブディスは、ラスラの故郷に相応しく暖かで美しかった。
白色の石畳の上を幾人もの人が往来し笑顔で挨拶を交わす。ラバナスタとはまた異なる明るさに満ちたその街がアーシェは好きだった。
ラスラの故郷は私の故郷、と。
結婚後はそう思う程に大切に思って、永久に繁栄が続き其処に息衝く人が幸せであるようにと、ダルマスカと共に祈った。
だというのに、今は誰もいない。
国の中心である王家も、城を囲み広がる街も、其処を行き来する人々のただ一人さえいない。
何故祈りは聞き届けられなかったのか。
何故ラスラは死んだのか。
何故この街が消滅しなければならなかったのか。
―――――その全てが帝国のせいだ。
惨状を目にする程に憎しみが増えていく。
体が震える程の怒りがこの身を支配していくのが分かる。
「望みは復讐?」
フランはきっと私を責めているのだろう。
ヴィエラは聡く鋭い。そしてそれ故に他の者達以上に私を理解出来ない。
哀れだと、醜いと、思うだろうか。
けれど私は―――そう思わない。
憎しみは自分を奮い立たせる、力だから。
不意にバルフレアと目が合った。
「……」
彼は一瞬だけ何か言いたそうな顔をしたが、結局何も言わなかった。
胸にチクリと針が刺すような痛みを感じる。
(復讐をしたらもう戻れない)
どうしてか、そんな恐ろしさが突然に沸き起こった。
もう一度ナブディスの惨状を目に焼き付けようと辺りを見渡す。
目に入った光景がほんの少し前と違って見えていた。
ぐずぐずと滑る大地も真っ黒の瓦礫も、漂う死の空気も、全てが許せない程熱かったのに、今は底冷えする闇色に映る。
破魔石は恐ろしいもの。そう感じない自分もまた恐ろしい気がして、アーシェはぎゅっと体を抱き締めた。
ラスラの亡霊出ないかなと死都ナブディスをうろうろしたなぁ。