Halloween Witch





「お裾分け」
  ハロウィンの夜にふらりとやって来たクラウドを迎えたスコールの胸にガサリと紙袋が押し付けられた。
  袋の中にはキャンディーやらチョコレートやらクッキーやらのお菓子がごちゃごちゃと一杯に入っている。今夜お菓子袋を持ち歩くのは子供だけだった筈なのだが。スコールは目を丸くした。
「クラウド、まさかいい歳してお菓子を貰いに回ってたのか?」
「まぁな。お菓子をくれなきゃ家壊すぞって言ったら皆物凄い量をくれてな、これはその一部」
「……(そりゃくれるだろうよ)」
「おいスコール、今の本気にしてるんじゃないだろうな?」
「……してない。ちゃんと冗談だと分かっている」
  その割に返事に間があったような気がするぞ、とクラウドが指摘するがスコールは聞こえない振りをした。 部屋の中にクラウドを招き入れながら渡された紙袋をテーブルに置いて中をもう一度覗き込む。
「で、本当はこれ、どうしたんだ?」
「子供達が戦利品をくれたんだよ。お菓子をやろうと思ってドアを開けたのに、逆に渡されてびっくりした。断ったんだが、 受け取らなきゃいたずらするぞって。どんなハロウィンだって説得しても聞かなくてな。まったく、子供の考えることは分からない」
「相変わらず……モテるな」
  困惑顔のクラウドの説明にスコールは呆れと共に感心を覚える。
  つまり子供達にとってクラウドの優先度はお菓子より上ということだろう。
  ここまで子供達に好かれるというのはある意味才能だと思う。(彼の場合老若男女問わず好かれる気がするから見ている方は気が気でない。)
「しかし、それならあんたが全部食べた方がいいんじゃないか? 俺は甘い物は得意じゃないし」
「知ってる。けどホラ」
  クラウドは紙袋の中に手を入れてガサガサと中を掻き回しながら目当ての物を探り当てた。
  袋から彼が取り出したのは光沢の有る茶色の包みに包まれた小さなお菓子。
「この珈琲飴、スコールの好きなやつだろう? これを見たら思い出して、急にお前に会いたくなって……それで来たんだ」
「俺に、会いたく……」
  不意打ち程威力のあるものは無い。スコールは呆けた顔で飴を受け取りながら呟いた。
「クラウドが珍しく素直だ」
「たまにはな」
  悪戯っぽく笑むクラウドの顔はもし魔女の仮装でもしていたら本物と間違えてしまう。
(いや、仮装ナシでも充分魔女か?)
  スコールはほろ苦い飴を口に放り込むことでともすれば舞い上がる心を押し込めた。
  口に広がるスコールの好きな味は、糖分控え目の筈なのにいつもよりも少し甘い。
「この飴あんたみたいな味だ」
「どういう意味だ?」
  悪戯っぽく弧を描いた唇が挑発的に訊ねる。
「教えてやる」
  それがキスの口実であることはバレバレだっただろう。
  クラウドもスコールの行動を予測していたらしくごく自然に降って来た唇を受け止めた。
「ん」
  合わせた唇の隙間からスコールは珈琲味の舌をクラウドの口腔に差し入れた。
  何度も内部を撫でる度に控え目だった甘さがどんどん濃くなっていく。糖と香りを送り込むとそれよりずっと甘い吐息が互いに漏れた。
  熱で融けていく飴をその儘相手に渡してしまいたい衝動に駆られながらも、スコールは抑えの利く限界で舌を引っ込めてすっと身を引く。
「?」
  突如途切れたキスに、不思議そうにクラウドはスコールを見つめた。
「……飴も口移しされるのかと思った」
  キスの名残かぼんやりした儘呟いたクラウドにもう一度口付けて
「あんたに貰ったものを返すなんて勿体無いだろう」
  つい素直に答えてしまってからスコールは慌てて顔を逸らした。
  照れたその様子に思わず笑ってしまったクラウドの頭に「無理矢理取り返してやろうか」なんて意地悪い考えが浮かんだことは、 差し当たり、スコールの知るところではない。