「総司……待っ」
「待たない。約束したでしょ?」
  上に乗り上げた総司が可笑しそうに唇を吊り上げて笑う。
「君が勝ったら僕は大人しく療養し、僕が勝ったら君は今夜僕のものになる。そう約束したよね。そして君は僕に負けた」
「……」
「刀の勝負で負けた者に何か反論がある?」
「……無い」
  ぱたりと腕を下ろし抵抗を止めた斎藤に総司の唇が一度強く押し付けられる。
「本当に抵抗しないんだね」
  音を立てて唇を離すと、総司は口元の笑みを消した。
「君はどう思ってる? この僕を。新選組切っての天才剣士が、よりにもよって不治の病で死ぬなんてさ。 まったく可笑しくて可笑しくって……可哀想、だよね?」
  嘲るような冷えた眼差しで斎藤の眸を覗き込む総司は獰猛な獣のようで、それでいてまるで親に縋る童のようにも見えた。
(ずっと可哀想だと言う人が疎ましかった)
  試衛館に来た頃、両親を亡くし慕っていた姉に置き去りにされた幼い総司を、誰もが憐れみという名の嘘を被せて蔑んでいた。そんな連中を叩き潰し黙らせる力を手に入れてから、もう誰にも可哀想だなどと言われないと思っていたのに。 労咳を発病し臥せるようになった総司を見る一部の平隊士達の目は憐憫に満ちていて、何度そいつらの首を刎ねてやりたい衝動に 駆られただろう。
(僕より弱いくせに)
  憎悪に近い苛立ちに苛まれると同時に、何も無い僕から剣までも奪わないでと、幾度恐れ、願っただろうか。
  ぎゅっと布団の敷布を握り締めた総司の頬にそっと温かなものが添えられた。
  手の平で総司の顔を包み込み、暗闇に囚われた彼の眸を斎藤が見つめている。
「あんたを可哀想だとも代わってやりたいとも思わない」
「……っ」
「生きてさえいればとも思わない。ただ、全てがあんたの望むようになれば良いと思う」
  斎藤の目は総司の嫌う押し付けがましい感情を一分も持たない、何処までも透明な色だ。
「……僕の、望むように?」
「ああ。そしてそれが俺の意に沿わぬことでないならば、力になりたい」
「じゃあ、君が今こうして僕に組み敷かれていることはどうだって言うの? これは君の言う意に沿わぬことの筈だけどね」
  土方さんが好きなくせに。
  言外にそう告げると斎藤の顔は一瞬だけ厳しく顰められた。
「俺が同情でこうしていると思っているのか? 或いは約束を違える訳にいかないからだと?……俺は確かにあんたに勝つ気ではあったが」
  斎藤は一度言葉を切って静かな視線を総司に向けた。
「いくら病で弱っているからとて、俺があんた程の男を侮ると思うか?」
「一、く……」
「抱かれるのが嫌ならば初めから受けぬ」
  総司は堪らずに斎藤を抱き締めていた。
「やっぱり、君だ」
  彼の薄い唇に雨のように口付けを降らせる。
「ごめんね。君は知ってるよね。同情で抱かれて欲しいわけでも、約束を守らせたかったわけでもないんだ。だから……今の君の言葉が、凄く 嬉しい」
「総司」
「君だけなんだよ。こんなにも僕が欲しいと思うのは」
  君を喜ばせたいと思ったことなんかない。だって
(僕は君が羨ましかったから)
  君はいつでも好きな人に必要とされて、その人の役に立っているから。
  羨んでいる内にいつの間にか執着していたこの人は、これからもきっと変わらずにあの人の役に立っていくのだろう。 そう思うと、悔しくて妬ましくて――欲しくて堪らなくなる。
「一度だけだから」
  絡みつく思いを振り切るように総司は言った。
「たった一度でいい。死ぬ前に君を――抱きたいんだ。いいよね?」
  傲慢な懇願に斎藤は答える。
  総司の幼子のような唇に口付けて
「あんたの望む儘に」










土方を想ってても斎藤は斎藤なりに総司が好きです。