「ねえL、誕生日何が欲しい?」
人に贈り物をする時、はどちらかというと『聞いてからあげる派』だ。
本当は自分で選んで驚かせたいと思うのだが、それよりも相手が確実に喜んでくれるものを贈りたい
という気持ちが大きいからだ。
ましてLは、彼が望めば大抵の物が手に入るだろうという程の財を持っているし、だからと言って高価な物に
特別関心を示したり特定の嗜好があるわけでもない。
彼の唯一の嗜好と言えばスイーツであるが、それも彼に言わせれば只の糖分補給らしいし(本当にそれだけかどう
かは怪しいが)。
兎に角彼が何かを欲しがるとしたらそれは未解決事件かスイーツのどちらかで、まだ付き合って一年も経たないが他に彼の欲する物を推し量るのは困難を極めた。
という訳でこうしてLに直接訊いてみたのだが、返ってきた言葉はというと、を落胆させるものだった。
「ケーキが欲しいです」
「……あのね、それじゃいつもと変わらないでしょう」
こんな返答は予想の範囲内ではあったが、本当に返されると非常に困る。
は真面目に聞きたいのである。
「もっと何か、他に無い? 例えば、ええと……」
(えーっと……)
「………」
(お、思い浮かばない……!)
考えてみれば洋服もマフラーも手袋もネクタイも腕時計もジッポもアクセサリーも家具もバイクも車もセスナも
(いや車もセスナも私にゃ買えんけど)、全部ぜーんぶLには不要なもの又は既に持っているものばかりだ。
第一それらがLの欲しい物とも思えない。となるとやはりケーキしかないのか。しかしLの好きな店のケーキをが買
ってくることは普段からよくあるから、それでは本当にいつもと変わらない。
うーんと唸りながら悩み込んでしまったに助け舟を出すように、Lは事も無げに言う。
「誕生日だからといって特別なことをしてくれなくていいんですよ? 敢えて言うなら一日一緒に過ごして欲しいですが」
「それは勿論一緒にいさせて欲しいです。でもそれだけじゃ私が嫌っていうか、何かしたいの」
はきっぱりと言った。
Lが何もいらないと言っても、は大好きな人の為に何かしたいのだ。
どんな些細なことでもいい、ただ少しでも普段とは違う、特別なことをLの為にしたいのだ。
そんなに、Lは何故か少し可笑しそうに小首を傾げた。
「では、ケーキを作って下さい」
「え」
が思わず「え」と呟いてしまったのには訳がある。
「……L、知ってるでしょ?」
不満そうに口を尖らせてそう零せば、Lは「はい」とだけ返す。前言を撤回する気はないようだ。
Lが何を知っているかというと、つまり、はお菓子作りが不得手なのである。
まともに出来るのはブラウニーくらいで、クッキーは歪だしタルトは硬くならないし、特にホールケーキはスポンジの
外壁にクリームを塗る作業がどうにも苦手で不細工なことこの上ないのだ。
以前一度Lにせがまれ作った時彼は美味だと言ってくれたのだが、それでもやはり毎日綺麗で美味しいケーキに
囲まれているLにそんなものを出すのは恥ずかしく憚られ、それ以来作ろうと思えなかったのである。
(因みに家庭料理はそこそこ得意だがLが食べない為無意味という悲しい事実もある。)
「誕生日にあんな不細工ケーキなんて……」
「ですが味は物凄く好みです」
「そ、そう?」
“不細工ケーキ”は否定しない所がLらしいけれど、そのLらしさがには嬉しい気がする。
料理下手がよく使う言い訳「料理は見た目より味だ!」を思い出し少し慰められた。
Lがそこまで望んでくれてアレでいいと言ってくれるなら、頑張ってみてもいいかもしれない。
思いもしなかった要求だけれど、それでLの誕生日を祝えるだろうか。
作る方向へ流され始めたに駄目押しのように「何より」とLが言葉を続けた。
「苦手分野も私の為に克服する、という形で貴女の愛情が見たいです」
「………(それは遠回しに綺麗に作れよと?)」
克服しろということは上手くなれということで、つまりそういうことである。
この機に乗じてさり気なくのお菓子作り嫌い克服を狙っているらしいLには嘆息した。
期待に応えられる可能性の方が低いのにプレッシャーを掛けないで欲しい。
それでも、これでLへのプレゼントは決まった。
些細だけれど、少しでも普段と違う、特別なこと。
「分かった。頑張るから、楽しみにしててね」
十月三十一日。
一年前まで只のハロウィンだった日が、今年は大切な人の特別な日だ。
「L、お誕生日おめでとう」
この大切な日を一緒に祝えることが嬉しい。
私が作ったこれまでで最上の出来のケーキをテーブルに置いて、
「Thanks.」
満足気に微笑んだLと、今日、この日を祝おう。
Thank you for coming into this world.
(生まれてくれて 有難う)