「珍しいですね」
巡察の報告を終えふと出来た間に斎藤がぽつりと言った。
「何が」
「このところ、副長自ら島原によく足を運んでいらっしゃる。……それが珍しい、と」
「……」
別段追求された訳ではないのに土方はどきりとした。
斎藤の声に何処か棘を感じてしまうのは己の願望だろうか。
「島原で何か気になることでもあるのですか」
情報収集や遊び目的で隊士が色街に出ることはあることだが、副長が出向くことは殆ど無かった。
だというのにここ最近彼は頻繁に出掛ける。
諜報ならば監察に任せれば良いものを、彼自ら確かめたいものでもあるのか。
或いは気に入った妓でも出来たのか。
「あそこは敵も多い。副長である貴方が共も付けずに歩くのは――」
「俺が女と寝るのにお前の許可が必要か?」
「……」
言葉を妨げるように問えば斎藤は押し黙る。
許可を――
許可を否定という形で必要としているのは俺の方だろう、と土方は心中で苦笑した。
(俺を気にしろよ)
本当は俺が他の奴の所に行くことを気にして欲しいのだ。
嫌だと言って、許さないで欲しい。
そんなことを斎藤が言う筈が無いのに。
案の定彼は
「いいえ」
すっと土方から視線を外した。
「差し出がましいことを申しました」
落胆が胸から腹へと落ちてくるのを感じながら土方は嘆息した。
「いや、俺の方こそつまらねえことを言ったな」
俺が島原に行くのは、と白状する。
「忘れてぇ奴がいるからだよ」
外された視線を無理に合わせるように、半ば諦めの心地で土方は斎藤の顔を見つめた。
その強い視線に気付いたのか斎藤の伏せられた目が上がる。
伝わるだろうか?
否、どうせ「その人」は俺が郷里に残してきた許婚のことだとでも考えるのだろう。
違うのに。
――お前をめちゃくちゃにしたいと言ったらお前はどうする?
一度抱いてしまった感情が押し殺しても消えないことを知ったのはつい最近。
気が付けば目で追い、探し、頭の中で何度も抱いた。
信頼する仲間でしかも同じ性を持つ者ではないかと、幾度も忘れようと他の女で紛らわそうとしたのに。
「駄目だった」
真に渇望する相手を前にして手が伸びる。
戸惑う斎藤をそのままに胸の中に抱き込んだ。
「忘れられねェもんだな。なぁ、斎藤」
じっとして、動かない斎藤。
なぁ――こんな俺に従順なお前をめちゃくちゃにしたいと言ったら、お前はどうする?