「副長、お待たせしました」
「おう。じゃ、行くぞ」
直ぐ戻るとの言葉通り支度を整え戻って来た斎藤を伴い土方は歩き出した。
斎藤は相変わらず隣より一歩引いた定位置に納まっていて、その僅かな距離が心地良くもじれったい。
「副長」
「ん?」
「先程新八が言っていたことですが」
斎藤は土方を窺うように遠慮がちに見つめながら一呼吸置いて切り出した。
「もし妓のことなどで俺が邪魔になる時は……、いつでも仰って下さい。必要な時はお側にいて不要ならば
離れますので、どうぞお気遣い無きよう」
そう一息に言い終えると斎藤は目を伏せた。
無感傷なようにも、沙汰を待つ罪人のようにも見える彼の影が差した顔を面食らい顔で眺めてから、土方ははぁと
溜息を吐く。
「あのなぁ」
ぴん、
と斎藤の額を人差指で弾いてやった。
「!」
「お前が邪魔になることなんて、今までもこれからも一生ねぇよ」
左手で額を押さえ固まってしまった斎藤だが、土方にしてみれば彼が今更何を驚くのかが分からない。
「さっきも言ったろ? お前は忘れ物だ。忘れたら取りに行かなきゃなんねーもんなんだよ」
これまでだってちゃんと伝えてきたろうが、と口の中で呟いた愚痴は照れのせいで小さかったものの、斎藤にはきちんと
聞こえたようだ。
「副長……」
分かり難いようで案外分かり易い面差しが晴れやかに染まってゆく。
「……はい。有難うございます」
それを微笑ましく眺めながら土方は思っていた。
――必要ならば側にいて不要ならば離れるなどと。
一見健気で聞き分けが良いが、その実相手への執着が無いと言っているようなものだと何故気付かない。
「まだまだ、足りねえなぁ……」
「?」
のめり込む程落とすには、と土方は独り言ちた。
第32回新選組通信土斎祭記念!