その心が離れるのが許せなかった。
地を叩きつける雨の音が全ての音を殺し、五月蝿さより逆にしんと静まり返っていた。
頭の中で何かの糸がぷつりと切れたような感覚だ。
空気が濁り湿った部屋は、泥と草の青い臭いに加え凄まじい血臭を放っている。
平山と、芹沢と――斎藤。
前者二人はいい。初めから殺すつもりだった。
だが予定に無かった者が何故死者の中に混ざっているのか。何故此処で死んでいるのか。
糸が切れる瞬間も糸が切れた後も、何故なのかが全く分からなかった。
「何でだよ……」
原田が歪んだ声を出した。
近い筈なのに遥か遠くで聞こえたその言葉を頭が勝手に反芻した。
(何故?)
近付くなと言った。
芹沢を理解するなと言った。
此方に戻って来いと言った。
なのに何故、最期まで芹沢を選んだ……?
まだ温かい斎藤の体をそっと抱いた。ぬるりと血が滑り無性に泣きたくなった。
眼に全ての熱が集まっているように熱い。反対に斎藤の眼は静かに閉じられていた。
数日前に「離れるな」と抱いた時、斎藤の眼は物言いたげに俺を見つめていたが、今はぴくりとも動かない。
(あの時何を言いたかった?)
斎藤が何を考えているのかを、思えば出会った頃から何一つ知らなかった気がする。
芹沢は理解していたのか。
お前を理解していたのは俺でなく芹沢だったか。
だから最期まで?
全てが終わった後ですらこうして腸が煮えくり返りそうになる。
永久に慕ってくれると信じていた者が離れていく時、生まれるものが狂気だと初めて知った。
「ねぇ土方さん」
「どうして……一君は」
泣きそうな声で総司が呟く。
「知るか」
これが狂気だということの他、分かることなど何一つ無い。