「彼女に会いに行かないの?」
ヴァンへの土産を置いてから、漸く再会出来たシュトラールを“盗む”為乗り込もうとすると、
背後から相棒の声が掛けられた。
数年来のツレの言葉はよく分かる。が、答えを知りながら尋ねてくるのは何故なのか。
恐らく、いや、絶対に何か言わせたいからだろう。
浅く息を吐いて振り返った。分かってるだろ、と目で返す。
「アーシェはもう亡国の姫じゃないんだぜ」
一国の女王。自由を宣言し悲願のその座に着いた彼女はその実もう自由ではない。
彼女は多くを望まれ、また彼女自身も望んで、国を守る為に其処に居続けなければならない。
それが彼女の幸せであり、彼女はそれを不自由と嘆くことはない。
「空賊なんぞに頼らずとも、あいつは立派な女王になるさ」
バハムートでのやり取りを思い出す。
“アーシェなら自力で逃げきって見せるだろ”
“そこまで強いと思っているの?”
(―――強いさ)
お前は強かった、旅の間ずっと。
一つの目的にのみ目を向けて、人の声を聞き入れて、力に心奪われること無く遂には目的を達成した。
周囲も変えた。巻き込まれただけという意識を変え、背けていたことに目を向けて、俺達は過去と対峙した。
お前がいたから―――。
「一緒に来たし、一緒に行くんだ」
不意にフランがそんな言葉を紡いだ。
ゆったりした声、だが常と違うその口調は明らかに彼女らしからぬもの。
目を瞠り俺はあの時のあの場面から意識を戻された。
あの日の誰かの台詞を引き摺るように伴って。
“強くなくたってさ、一緒に来たし、一緒に行くんだ”
「ヴァンの台詞だったわね」
躊躇したような俺の顔が可笑しいのか、フランがクスリと小首を傾げて笑みを浮かべた。
「珍しく良いことを言うと思って聞いていたわ。何もあの言葉は、旅の間だけということではないのでなくて?」
「………」
「問題は、貴方がどうしたいのかに依るわね」
―――本当はもっと早くシュトラールを取りに来られた。
今まで来なかったのは、ヴァンにあれを貸してやる為。
空賊としてフネの管理も出来なきゃどうしようもない。
だからこれまで任せてやった。
だが、恐らくそれだけじゃないことには気付いていた。
……彼女の“お宝”を返すのを渋っていたなんてケチな理由だ。
「預かった指輪を何度も空に翳して見ていたのは誰?」
「…………」
(俺だよ)
反論を諦めて溜息を吐く。
「性質が悪ぃ」
まったくフランは性質が悪い。
答えを知りながら尋ねてくる。
まあこれも年の功か―――なんてことは口が裂けても言えないが。
「いいだろ、指輪はもう返すんだ」
ヴァンへの置き土産は財宝の在り処と一つの仕事。
フネを貸してやった礼に女王様に指輪を返す役割くらい受けさせて当然だ。
こんな弱みになる指輪さっさと返せば良かったぜ、と心底後悔していると、
「貴方ほんとに顔に出るのね」
フランはまたも余計な一言。
(何が出るって?)
……本当に年の功だ。
「行くぞフラン」
不利な話題はさっさと切り上げるに限る。
なのに今度はこっちから余計な言葉が零れ出た。
「……戴冠式は一月後だったな」
(――――何言ってんだか)
チッと舌打ちする。
「お節介になったよな、フラン」
誤魔化すようにそう言えば、返ってきたのは相変わらず微笑。
(敵わねぇわ)
フランにしてもアーシェにしても。
俺は心底、そう思う。
フランは二人の為を思ってお節介してるんじゃなく単に面白がってるだけ。そういうスタンス。
近付いちゃマズイみたいに思いつつ惹かれちゃうのが自分的バルアシェ理想。