自覚





  ミッションを終える頃合を見計らったかのように降り出した雨に打たれ、ザックスは全身濡れ鼠となって 本社に駆け込んだ。
  ブルブルッと犬のように体を振るって雫を落としてから歩き出す。
   靴と床が擦れキュッキュと音を立てるのを聞きながら早くシャワーを浴びたいと思い足早に通路を進んでいると、 向こうから見覚えのある金髪が歩いてくるのが見えた。
  ザックスが軽く手を挙げて合図すると向こうもすぐに気付き、靴の音を響かせながら小走りに近付いて来る。
「よ!クラウド」
  距離が縮まったところで声を掛けると、クラウドはずぶ濡れのザックスに驚いた顔をした。
「ザックス、今帰り?」
「おー。で今上に報告行くとこ。そっちは?」
「俺はこれから訓練。……髪凄い濡れてるけど、雨酷かったのか?」
「そうなんだよ、一時期すげー酷くてさ。いきなり降ってきただろー?」
  もー冷たくてさぁとザックスが水気を払うようにまた頭を振ると、滴のとばっちりを受けたクラウドが「飛ばすなよ!」と笑いながら首を引っ込めた。
  ザックスは冗談まじりのその動きを止めてやる。
  クラウドは何かを思いついたかのように「そうだ」と呟き、持っていた鞄のチャックを開けて中に手を突っ込んだ。
「あのさ」
「ん?」
「良かったら、これ」
  そう言ってクラウドが差し出してきたのは真新しい白のタオル。クラウドはザックスから僅かに視線を外すようにして ぎこちなく言葉を続けた。
「使ってないから綺麗だし、そのままじゃ風邪引くから……」
  不器用な言い方。
  そのクラウドらしさにザックスは思わず笑みをこぼしながらも、「ん」と首を突き出してみた。 「頭に掛けてよ」である。
  頭をずいっと出されて、また水を飛ばされるのかと一瞬構えたク ラウドだが、すぐにザックスの意図に気づいた。
  戸惑いがちにザックスの濡れた黒髪の上にふわりとタオルを掛ける。
  柔らかで優しい感触が頭を包み、ザックスはタオルを被ったまま顔を上げて満足げに笑った。
「サンキュー」
   ザックスのその顔にクラウドもほっとしたように微笑む。
「早く風呂入らなきゃダメだぞ」
「分かってるって。母ちゃんみたいなこと言うなよクラウド」
「シャワーじゃなくて風呂だからな。部屋に付いてるんだろ? 1stなら」
  一般兵は付いてないんだ、と少し残念そうなクラウド。
  ザックスは普段シャワーだけでまったく気にならないのだが、時々は確かに風呂が恋しくなる時があった。
  1stになって、2ndまでと明らかに区別された部屋を宛がわれそこに備え付けられた風呂を見た時は、 飛び上がる程……とまではさすがに言えないがまあ嬉しかった。
「そうそう。実家の風呂より倍デカくてびっくりしたぜ」
「ほんとに? 見てみたいなそれ」
「んじゃ今度入りに来いよ。タオルの礼に入れてやるからさ」
  ザックスの何気ない誘いにクラウドは一瞬考え込むような素振りをしたが、すぐに頷いて言った。
「じゃあタオル貸して良かったな」
  冗談ぽく笑ってから、そろそろ行かなきゃまずいかも、と軽く手を振ってクラウドはまた小走りに去って行った。

  金髪の後ろ頭を見送ってから、ザックスはふうと溜息を吐く。
「なんか俺、変」
  ……どうもクラウドといると変だ。
  他では何気なくやっている普通の誘いも、どうもやりにくい気がする。
  別にやりにくいからといって変な言い方をしてしまうとかそういう事ではないのだが、何だかいつもより 緊張する気がする。
  クラウドのさっきの一瞬の間さえ落ち着かなかった。

  ―――それはクラウドの所為でなく、多分自分の中の問題なんだろう。

  ザックスは被っていたクラウドのタオルを外し、染み込んだ自分の水滴で一層柔らかさを増したそれを握り締めながら、
(変だよ、なぁ)
  誰にともなくひっそりと呟き、エレベーターへと向かって行った。