覚醒





何故あの者は欲も畏怖も持たぬのか。
問いを浮かべることすら愚かだと悟った。
あれはそういう生き物なのだ。
その名を知りたいと王は思う。

名をコムギといった。
何のことは無い、力を以って撫でれば呆気なく千切れるその生き物。
だが絶対たる力の王は其れを奇妙にも持て余す。
力を翳せず王の言葉は労りに変わる。

人である故柔く脆いが其の中に宿るは何よりも堅固。
あの女に、王は触れたい。
正体の解せぬ思い、それを抱く己もまた解せぬ儘。

壊したいと思わずとも
他者は勝手に壊れた。
己の持つ強大な力の前に全ては塵に等しき者。
壊れた塵が王の世界に影響する筈も無く。

しかし王は触れる。
壊れゆくコムギの体を慈しみそっと。

治さねばならない。
これは塵でなく
己に必要な生き物故に。

一瞬で覚醒
王たる王へ。

―――――――――世界が変わる









N0.268王より。