「土方先生、今年も凄い数ですね」
年に一度のバレンタインの日。廊下でカラフルな箱が幾つも入った紙袋を下げた土方先生に出くわした。
原田や永倉といった先生も人気で毎年随分貰うようだが、流石にこれ程ではない。
「食べるのが大変そうだ」
「まぁなぁ……。けどま、時間をかけて食うさ。折角貰ったんだしな」
苦笑しているが本当に全部食べるつもりなのだろう。
生徒から貰ったものを無碍に出来ず地道にチョコを片付ける姿が目に浮かび笑みを漏らした。
それをどう取ったのか
「お前も結構貰ったんだろ?」
と当然のように意地悪く訊かれ、つい顔が苦いものになる。
「ええ、まあ」
好意は有り難いが甘い物はあまり得意ではないから、正直言ってこの日は好きになれない。
そのことを先生は知っているのだ。
「そんな顔すんなって。貰えるうちが花なんだぜ?」
「はぁ」
「女ってのは大人も子供も正直だからな。貰いすぎで困るってのは思えば贅沢な悩みだ」
としみじみ零す先生に「そんなものでしょうか」と返しそうになるが、ふと思うところがあった。
「そういえば、女子はいつも忙しそうですね」
「ん?」
「何かイベントがある度にプレゼントを用意したり、はしゃいだり」
特別な日や記念日を何かと祝おうと盛り上がる女子達の姿を思い出す。
「そうやって想う相手に気持ちを素直に表す機会が多いのは……少し、羨ましい気がします」
自分の感情面の不器用さを気にしているつもりはないが、ややそんなニュアンスが入ったかも知れない。
「お前は自分が思ってるよりずーっと素直だぜ?」
先生がふっと笑みを作り顔を覗き込んできた。
「顔……特に目に出るんだよ、お前は。誰が好きなのか。本当は誰に何を伝えたいと思っているかを、な」
まるで全て分かっているとでも言いたげだった。
本当にそんなに分かりやすいだろうか。本当に、分かっているのだろうか。
真意は見抜けなかったけれど
「貴方に分かるならそれでいいです」
この一言で全て伝わってしまうだろうことは予測出来た。