粉雪恋華





  時折犬の遠吠えが混じる静夜。
  ふと夜歩きに出たくなり偶々廊下で会った斎藤を誘ってから四半刻程が経つ。
  特に話すでも無く互いの沈黙があればいいと思えるのは相手が斎藤だからだ。
  恐らく気質の波が似ているのだろう。
  小煩いのは好きじゃないと、そう思えば静寂を。何か言ってくれと念じれば的確な言葉を。
  損ずること無く斎藤はくれる。
  まるで良く出来た妻のようだとつい考えてしまい、いくら何でもそりゃねぇだろうと斎藤への非礼を心中で詫びた。
  ふわり、ふわりと。
  降り出した粉雪が柔らかに落ち肩口に沈む。
「雪、か」
「……寒い筈ですね」
  髪に白い粒を幾つか付けて斎藤が言う。その息の白さを見て、きっと体も冷えているだろうと思った。
  斎藤の手を取り指先まで触れてみると、やはり雪のように冷たい。
「副長?」
「これじゃ悴んじまうな」
  口元まで運んだ斎藤の凍えそうな手にはあと息を吹き掛け温めてやると、斎藤の頬が微かに桜色を帯びた。
  それが冬の終わりに芽吹く春の花に似ていて、何やら嬉しい気持ちにさせる。
「そろそろ戻るか」
  告げると斎藤はいつものように静かに頷いた。
  取った儘だった手が自然に離れていくのをもう一度捕まえて
「部屋で温めてやるよ」
  細い人差指を口唇で挟むように食んだ。