この手で誰もが





「死んでいくんだ」
  特殊な技術を施し強化した太い鉄格子の向こうで男がぽつりと言った。
「俺の手で皆死んでいく」
  虚ろな瞳は虚空を見上げ何も見ていない。
  其処に居るのは確かに人である筈なのに、変わらない表情は暗い照明の下で蝋人形のように見えた。
「お前が殺したからだろう」
  対するスコールの眼は憎憎しげに男に向けられている。
  こいつの所為でSeeDが何人も死んだ。
  友だった者、友人とは言えないまでも何度か笑顔を向けられた者。
  ゼルは命こそ助かったものの重傷を負った。スコールと共に戦ったサイファーは激戦で骨を粉砕され未だ意識が戻らない。かく言うスコールも回復魔法を使い続けて漸くこうして足を地に着けることが出来たのだ。
  だというのに今この男が無傷なのはどういう訳か。
  確保の際深手を負わせたのが嘘のように消え、誰もが彼にこう言った。――化け物、と。
「お前はエスタ大統領暗殺を謀った。極刑は免れない」
  スコールは全ての感情を押し込めるよう努めて冷静に言った。
「お前の手でもう誰も死なない」
  先程の男の言葉に皮肉ると、ふと、男の顔がスコールに向いた。
  まるで今初めてスコールの存在に気付いたかのように緩慢な仕草だった。
「俺は殺さずには生きられないんだよ」
  無表情だった顔に初めて――此処に来て初めて、男の顔に感情らしきものが浮かぶ。
  にやりと唇を歪めた顔は美しい造形であるが故に一層不気味で、スコールの背をぞっと寒いものが走った。
  あの大統領官邸で戦った夜に幾度も味わった狩られる者の感覚。
  いや、あの時の彼は戦いの中で闘気に包まれていたから分からなかったが、今はあれよりもずっと薄ら寒い露骨な狂気を感じる。
  葬ってきた何十、もしかしたら何百という魂に圧し掛かられたのか。鮮血を浴び続けそれに呑まれたのか。或いはもっと別の何かに体を蝕まれたのか。
  兎に角この男はスコールの見たところ、狂っているのだ。
「早く殺せ」
  檻を隔て佇む狂人に気圧されたか無意識に一歩退いたスコールに、男は突如真顔になって言った。
  それは人形のようなものでも、血に狂った殺人者のそれでもない。至って普通の、うらびれた囚人のような顔だ。
「俺を決して生かすな。それがお前達の為だ」
「……お前……」
  スコールは瞠目した。極刑にすると言った傍から生かすなと返してきた男の物言いに、はっと思い当たったのだ。
(こいつは知っている)
  彼の戦闘力と、体が持つ異常な回復力を研究したがっている研究者達がいる。
  彼の死体を調べるのでなく、まずは生きた状態での調査が必要であると唱える者も多いことを。
「俺の細胞一つまで焼き尽くすといい。そうすればきっと、もう誰も殺さないから」
  それは奇妙にも、不吉な予言のように思われた。
  そうすればきっともうだれもころさない。けれどもしそうしなければ――
「お前を殺す」
  スコールはぐっと拳を握り締めた。
「俺が必ず、責任を持って」
  崖縁から奈落の底を見下ろすような眼できっぱりと言い切ったスコールを前に、檻の中の男は、ただ静かに笑っていた。









monstre後書きのBの場合その後ってイメージ。