「もし……」
嗄れた老人の声がした。
呼ばれたのが自分と気付き、クラウドは歩を止めて肩越しに振り返る。
クラウドの目に、草色の草臥れたローブを引き摺り雑踏に座り込む一人のくすんだ老人が映った。
乾いた長い灰色の髪と落ち窪んだ眼が年を感じさせる老婆である。
彼女の前にはひび割れた器があり中には数枚の硬貨が入っていた。物乞いだろうか。
「――?」
しかし足を止めたクラウドに老婆は強請らない。
眼窩に埋もれた黒い眸で、只じっとクラウドを見上げていた。
深い穴のような目だと思う。クラウドは戸惑いを覚え老婆に尋ねた。
「……何か」
「お前さん、誰の魂を抱えておる?」
「……魂?」
老婆はゆっくりと口を動かす。視線は変わらずクラウドを見続けていた。
「視えるんじゃ。お前さんの中に、二つの魂がのう」
その言葉で、訝しげに老婆に向き合っていたクラウドはああと意を得たように息を吐く。
「すまないが、占いの類には興味が無い」
オカルトにも興味は無いと、そう言い捨てて視線を外す。
つまらないことには時間を割けない。背を向けて足を踏み出す。
その背に、また声が掛けられた。
「二つで一つか。あるいは個々が別物なのか」
それはまるで魔術師のような、とても重い――声がした。
反射的に足を止めたクラウドに老婆は双眸を細めて。
「――分かる日が、必ず来よう」
予言のようにそう言った。
クラウドにはまだ分からない。身の内に知らないものがあること。知らない自分がいること。失ったものにさえ、気付かない。
「…………」
僅かな引っ掛かりを感じながらも今度こそ老婆から耳を背けたクラウドに、老婆はもう一度だけ寂しげにぽつりと呟く。
「誰の、魂かのう」
失って背負ったのは、誰の痕跡だったのだろう。
7本編序盤まだクラウドが真実を知らなかった頃街で出会った不思議な老婆。って設定。