どさっ、と。
自分の体がベッドに沈み込む音がやけに大きく聞こえたのは、寝台が受け止めた体重が二人分だったからだろうか。
見上げてもいないのにすぐ真上に男の顔がある。いつも不敵な笑みを絶やさない端正な顔が、今は怖いくらい真面目
な表情をしていた。男の両腕が伸びて顔の近くに置かれている。それはまるで天蓋のようにアーシェの体をすっぽり
覆ってしまっていたが、それでも感じるのは圧迫感や閉塞感ではない。寧ろ囲われて守られているような安堵感を
この状態でアーシェに与えることの出来る男がラスラの他にいるなんて思わなかった。そして自分がこんなにも傍にいることを彼以外に許すなんて思ってもみなかった。
男の唇が降りてきて自分のそれに押し当てられるのを、
長い指が頬を撫で首筋へ、乳房へと沿わされていくのを、
無抵抗に受け入れられるのが信じられない。
「アーシェ」
無意識に瞑っていた瞼にキスをされ気が付いたように目を開くと目の端から何かがつっと零れ落ちた。
それが涙の粒だと気付くのと同時に、何の粒なのか分からなくなる。
今感じているのは恐怖でも不安でも無い筈なのに、どうして涙が出るのだろう。
亡きラスラへの想いを断ち切ろうとすることへの罪悪感だろうか。否――
アーシェが小さく首を振ると、バルフレアの顔がまた降りてきて今度は涙の軌跡を辿るように唇を滑らせた。
「……俺だけを見てろ」
余計なことを考えるなと低く熱く呟かれた言葉から、アーシェがラスラを思い出しているとバルフレアが思っていることが分かる。
(――違うの)
彼の言葉を聞いた瞬間に答えが分かった。
そうじゃない。アーシェは涙の理由を伝えたかった。
罪悪感ではない、これは、泣きたい程の幸福感が貴方を前に湧き出しているからなのだと。
だからアーシェは
「貴方だけを見てる」
真っ直ぐに彼を見つめて精一杯の表情を浮かべた。
“幸せ”、と。
それだけで充分だった。