「今日はバレンタインだろう?」
濃茶の生地にクリームが添えられたホールのチョコレートケーキを切り分けながら、ライトさんが言った。
「セラがスノウにケーキを焼いたんだが、私にも一個作って行ってな。一人だと多すぎるから一緒に食べよう」
「あの……でも、どうして僕を」
呼んでくれたんですか? と少々の期待を込めて訊いたのだが、返ってきた言葉は至極あっさりとしたものだった。
「前に甘い物が好きだと言っていただろう?」
自然、肩が落ちる。
そのことを覚えていてくれたのは嬉しい。家に呼んでもらえたのも嬉しい。なのに素直に喜べないのは、今日という日のせいだ。
「セラは料理が上手いからホープの口にも合うと思う」
カップに温かい紅茶を注ぎ入れてくれたライトさんに勧められ、フォークに刺したケーキを口に運ぶ。
「……美味しいです」
女の子らしい味。口一杯にクリームの程良い甘さとチョコのまろやかさが広がり、文句無しに美味しいと言えた。
ライトさんは「だろ?」と言うように満足気に口角を上げてから自分もそれを口に入れた。
「同じ物を作っても私だったら絶対に焦がす」
「ライトさんが?」
少し驚いた。
「私の料理は昔から上達しないんだ。どうやら才能が無いらしい」
ライトさんは肩を竦める。
何でも出来そうに見えるけれど、美人は料理が下手なんて言葉もあるから言われてみればそう意外でもないかもしれない。
「じゃあ料理は嫌いですか?」
「いや、嫌いってわけじゃない。セラに任せきりで遠ざけてしまっただけだな」
「そうなんですか……」
それを聞いて、思い切ったことを言いたくなった。
料理が嫌いと言われたらそれまでだったが、そうでないなら――
「食べてみたいです」
「え?」とライトさんが顔を上げる。
言うのにとても勇気が要ることだが、言わない儘では伝わらないのだ。
「セラさんのケーキは凄く美味しいです。でも、僕はライトさんの……」
つい俯きがちになった顔を何とか上げた。
「ライトさんの焦げたチョコレートケーキが食べたいです」
「ホープ……」
ライトさんの驚く顔が見えた。
「だから来年は良ければ、その……僕に作って貰えませんか」
(………言えた)
言い終えるとどっと疲れが押し寄せて来た。と同時に一気に不安が立ち込めてくる。
内容的には大したこともないのだろうが、とんでもないことを口にしてしまった気がした。
「……」
「……」
「……」
何も言わないライトさんを目だけに力を込めて(内心あたふたで)凝視していると、不意にふっと吹き出す声が聞こえた。
「?」
ライトさんが笑っている。そして
「分かったよ。そこまで言うなら作ってやる」
「! 本当ですか?」
「ああ。黒焦げでもちゃんと残さず食べるならな」
焦げたケーキを食べたいなんて変なヤツだ、と可笑しそうに言われた。
それでも、黒焦げだからではない、ライトさんのだから欲しいのだと言うことはちゃんと伝わったと思った。
「絶対に食べ切ります」
余程真剣な顔をしていたのだろう。
ライトさんがまた、可笑しそうに笑った。