適当に手に掛けた者の散乱した手足の前で笑っていた。
小枝が炎に燃え焦げついていくように
墨が紙を汚し黒く染めてゆくように
己が決して這い上がれない暗い深淵に落ちてしまったことを悟る。
「見ないでくれ」
これまで人を斬ってきてもこんな斬り方はしなかった。
飢えた衝動に耐えかね飛び出した俺を追って来たらしいこの男は、それをよく知っている。
「俺は」
最早人でなく羅刹―――「鬼」。
「見るな」
老いてもいないのに白く変化したこの髪も
血に飢えたような赤い眼も
狂人のように歪んだこの顔も、生きる為に選んだ道故に恥とは思わない。
ただそれに侵食された脆弱な俺を、どうかお前だけは
「黙って」
俺を包み隠すように抱き締めてきた男が妙に優しげに囁く。
その声を聞くだけで目頭が熱くなった。
「僕も一緒に落ちてあげるから」
コト、と
中の液が消えた空き瓶が地に落ちたのが見えた。