か すかに残る、あなたの香りとか
「ん……」
睫をふるりと揺らしアーシェは瞼を開けた。
爽やかに朝を告げる小鳥の囀りがバルコニーから聞こえる。
まだ少し微睡む目頭を押さえながらゆっくりと身を起こし、肩から落ちかけたシーツを胸まで引き上げた。
ふと隣を見る。
昨夜彼の座った場所。明け方まで彼が身を横たえていた場所。
手早く直したのかもしれないけれど、乱れた名残のある其処にそっと手を置く。
彼の熱はもう感じられない。大分前に此処を去ったのだろうか。
小さく息を吐いてアーシェは再び体を横にした。
頬をベッドに付けた儘彼の居た場所を見つめる。
この逢瀬を始めてから朝を共に迎えたことなど無いし、それが出来ないことも承知している。
悪いな、と時折彼が漏らす一言が嬉しいからそれだけで良かった。
―――けれど少しだけ寂しい。
こうして一緒に朝を迎えるのは、
微かに残る、貴方の香りだけ。
た りないと、目を伏せる仕草とか
わ らった後の、仄かな静寂とか
ら いとを消してから、繋ぐ手とか
「まさか女王様が不調とはな」
はあーと大仰な仕草でバルフレアは溜息を吐いた。
「折角来たってのに」と落胆を見せ付けるように首を振る男に、ベッドに腰掛けていたアーシェは複雑な顔をする。
別に来たなら来たで一緒にいるだけでいいではないか。逢瀬だからといって何かしなければならないわけでも
ない
だろうに。
不調は止むを得ないことだというのに、まるでこちらに非があるような言い方をされては若干の不満を覚える。
とはいえ、彼の言い方に問題があるとしてもやはり求められることは嬉しいもの。
男女関係に長けてはいてもその実あまり執着の無さそうな彼だからこそ尚更だ。
「あの、ごめんなさい」
自分に落ち度が無いことは知りつつも、つい何故だか申し訳なさを感じてアーシェは無意識に謝ってしまった。
窺うようにバルフレアの顔を見上げる。
と、不意にベッドサイドの灯りをバルフレアが消した。
暗闇が落ちた瞬間にどさりとベッドを軋ませ隣に座る男の気配を感じる。アーシェの手が温かな感触に包ま
れた。
「バルフレア?」
手の甲に重ねられた手の感触が珍しく、アーシェは戸惑いがちにバルフレアを見た。
暗さに目が慣れず彼の表情は分からない。けれど聞こえてきた声は包み込むようなその手と等しく優し
かった。
「今夜はこのまま寝るか」
「え?」
「いいだろ? 手を出せないなら繋ぐくらいしてても」
彼らしい口調で、でも珍しいことを言う。
アーシェは意外さを隠せずに目をぱちりと瞬かせた。
「正直俺には生殺しなんだが」
バルフレアがまたわざとらしく溜息を吐きながら付け加える。
(だったらよせばいいじゃない?)
生殺しなんて言いながら同じベッドに乗ってくる。
そんな男にアーシェは思わずふっと笑みを零して、くすくす笑い隣の熱に身を寄せた。
に かいめの、告白とか
あ した会うための、別れとか
い つだって傍らに、愛
不確かな恋7題
配布元 あまもりゆーとぴあ 様