1.君の隣にいるのは僕じゃなくて
笑った顔が見たかった。
ふわりと優しく微笑む顔も年上らしい唇だけの笑みも、いつも綺麗なのにあの笑顔には敵わない。
いつもあの人の隣に並ぶ黒髪の男にだけ向けられる、心から楽しそうなあの夏のような笑顔。
……分かっている。
無二の親友というポジションは、クラウドにとって只の後輩に過ぎないスコールには遠いのだ。
近付けない踏み込めない関係だと、あの二人を見る度に苦しい程理解した。
「スコール」
立ち尽くすスコールに気付きクラウドが声を掛ける。
出会ったばかりの頃は微笑んだその顔だけで満足していたのに。
(足りないんだ、もう)
“親友”に寄せる想いを、どうか俺にも――。
口に出せない想いを抱え、スコールは逃げるようにその場を去った。
2.最初で最後の口付け
日が沈む前のオレンジの教室。
机を挟んですぐ正面に好きな人の顔。
そんな状況で何も感じず落ち着いていられる程俺は淡泊じゃなくて。
高まる気分の儘に身を乗り出して口付けた。
一瞬だけ触れた唇は柔らかで、交わした視線は穏やかで。
そしてその穏やかな表情の儘その人は言った。
「二度目はないよ」
スコールだから許したのかもしれない。
けれどスコールだから一度しか許さない。
明らかな拒絶も受容も無く真っ直ぐ見つめてくるクラウドを間近にしながら、スコールはこれが最初で最後の口付けだと知った。
3.こんなに好きなのに
「好きなんだ」
「ごめん」
「俺じゃ駄目なのか」
「……ああ」
――吐き出すように想いを伝えた。
抱え込んだ体を力一杯抱き締めて、この胸の鼓動も肌の熱さも全てが伝わればいいと思った。
返ってくる言葉なんて分かっていた、それでも。
「ごめんな。有難う、スコール」
静かで少し悲しそうなクラウドの声が耳元でした。
傷付けたくも困らせたくもなく、ただこんなにも好きなのだと知って欲しい。
それを分かってくれているのか。
いつまでも体を離そうとしないスコールを咎めることなく、クラウドはただ彼の気が済むのを待っていた。
4.もう会うこともない
親の都合で転校することになった。
これまで何度も親に振り回される度に溜息を吐いてきたが、今回ばかりは良かったと思えた。
それはクラウドから離れ叶わない想いを捨てる良いきっかけになるから。
振られた相手の傍でその人が別の誰かと親しくしているのを見るのは辛い。
離れなければと思う程、告白の日からのクラウドへの態度が何処か不自然なものになってしまったと自覚していた。
転校の日まで誰にも何も言わなかった。
未練のある相手なんて唯一人以外にはいない。
クラスメイトに別れを告げて、教師に挨拶をして、校門を出た。
校舎に背を向けて歩き出す。その時――
「スコール!」
もう会うことは無いと覚悟した人の声が聞こえた。
5.最後に一目だけ
「クラウド……」
振り返って呆然としているとその人はずんずんと大股で歩いてきて、
「ッ!?」
ガツンと、……握った拳で思い切り頭部を殴打してくれた。
穏やかに見えるのに意外と手が早くしかもその打撃が痛いことは知っていたが、スコールが食らったのは初めてである。
目をぱちぱちと瞬かせながらスコールは呆けた。
「な、なにするんだ」
「何するんだじゃない」
スコールの控えめな非難をクラウドは凄んだ目で睨んで一蹴する。
「いきなり転校ってどういうことだ。今日まで誰も知らなかったそうじゃないか。ていうか俺に言わないってどういうことだ」
畳み掛けるように問い詰めるクラウド。どうやら怒っているようだ。
普段は温和なのにこういう時はかなり迫力がある。
押され気味のスコールであったが負けじと訊ねた。
「あんたは何で分かったんだ?」
学年違うのに、と付け足せば
「ザックスから聞いた。あいつ情報早いから」
と返ってきた。
ここにきてまた彼の口から出た他の男の名にむっとしかけ、そんな自分をスコールは何とか諌める。
(いい加減女々しいのは駄目だ)
「……転校は親の都合だ。あんたに言わなかったのは……分かるだろ?」
このタイミングじゃまるで振られて逃げるようではないか。
小さく息を吐いて答えれば、クラウドは真剣な顔をした。
「俺に気を遣わせない為?」
「それだけじゃない。俺が、……辛いから」
二人を遠くから眺めるしか出来ないことが。クラウドの後輩という立場すら無くなって遠い場所へ行くことが。
振られたくせに本当は未練たらたらだなんて悟られたくない。それなのに、
「……また会えるだろ?」
最後まで人を翻弄するつもりらしい、この人は。
(最後の一目だ)
そう念じてクラウドを見るのに、
「……ああ」
出てきた言葉は何処までも未練がましい。
満足げなクラウドを前に、スコールは己に心底呆れるしかなかった。
悲しい恋5題 Fin.
配布元 僕らだけの理想郷 様