「死ぬのが怖くなった」
真っ白なベッドの上で抱きしめられたまま、七海がぽつりと言った。
「ん?」
「今がずっと続けば良い。そう思ったら、死ぬのが怖くなったの」
今まで一度だってそんな風に感じたことは無いのに。
「あなたの、せい」
そんな言葉を零しながら、七海はすう…と眠りに落ちた。
伏せられた長い睫を見つめてロンはくすりと笑う。
「それは良いことだよ?」
自分の命に執着するのは、自分に価値があると思えることだから。
自分の能力を自分自身と思い込み嫌っていた彼女はもういない。
それは「俺のせい」で、自分の言葉が彼女に与えた影響を思うと思わず笑みが零れた。
(可愛いね)
生まれたてのひよこが初めて与えられたものに飛びつくように、易々と彼女は墜ちて来た。
(でも、そんなに俺を信じて良いのかな?)
信じたものが間違いだったら、ひよこは何も得られずにやがて衰弱して死ぬだろう。
或いはお腹が空いたその捕食者にぱくりと食べられるのか。
(どっちがいいかな?)
俺に殺されるのと勝手に死ぬの。
思考と裏腹にロンの手は優しく七海の頭を撫でた。
「ロ……ン」
名を紡ぐ小さな唇にそっと指を当てる。
柔らかく、温かな存在。
自分とはまるで違うこの生き物に自分は好かれている。
移ろいやすい心はいつまで変わらずにいるか分からないけれど。
少なくとも、今はこうして七海に名を呼ばれることに「価値」があると感じる。
「君に呼ばれると……」
俺もこのままでいたいと感じるのは何故だろう。
それが即ち生きていたいと思うことなのか、ロンには分からない。
今はとりあえず腕の中の存在を抱き締め、肌を擽る紫の髪にキスをした。