暗雲立ち込めた空に眩い線がぴっと走る。続いて轟く大太鼓の鳴動。
神鳴が起これば次には雨が降る。
庭で木刀を振っていた隊士達と総司を促し斎藤は室内へと入った。
間も無く外でぱらぱらと霰を散らすような音がし始め、それはすぐに地を叩くようなザアザア降りへと変わる。
「凄い雨だねー」
障子の隙間から濁った天を仰いで総司が嘆息した。
「もっと庭で稽古したい気分だったのになぁ、残念」
「仕方無いな」
雷が鳴る前は強めの風が吹き涼しかったから斎藤も総司と同じことを思っていたのだが、こればかりはどうしようもない。
中で稽古を続けることも出来たが、激しい雨音がいつの間にか室内の音を潰し沈静した空気にしてしまい、何となくする気にならなかった。
斎藤も総司も一言会話を交わしたきりで互いに黙り込む。
「……」
「……」
障子の上をカッと幾度目かの雷光が照らした。
そのきつい程の白さが目に当たった瞬間、斎藤はふとあることを思い出す。これとよく似たものを。
「そういえば、お前の突きはよく雷光の如しと喩えられるな」
「うん? ……ああ、確かにそうだね。隊士達がそんな風に言ってたかも」
総司の得意な三本突きのことだ。
一度突きを繰り出し糸を引くように素早く引き戻してから間髪入れずにまた突き、これを引いてまた一突き。
足拍子三つが一つに聞こえ三本仕掛けが一本に見える程の素早い技で、斎藤も初めて総司と刀を交わした時に一度食らっている。
恐らくこれを繰り出せるのはこの男だけだろうとその時既に確信したものだ。
「こうして稲光を見ると今更ながら成る程と思う。真っ直ぐで迅疾で鋭い。言い得て妙だ」
「一君、もしかして褒めてくれてる?」
「いや。只思ったことを口にしたまで」
「んー、あっさり否定するねぇ」
残念そうに総司は溜息を吐くが、引き下がりはしなかった。
「じゃあそういうことを他の人にも言ったことある?」
「……いや」
「それなら僕を褒めてるんだよ、君は。だって君が唯一凄いなんて感想を口にするくらいだからね」
「凄いなどと言った覚えは無い。が……そうか?」
「そうだよ」
にっこりと頷く総司の顔を見ていたら反論する気が失せてしまった。
妙な論述に納得させられてしまった斎藤に目を細め、「ねぇ」と総司が甘ったるい声を出した。
斎藤の顎に下から三本の指が掛かり掬い上げるように上向かせる。
「また君にもやってあげようか? 僕の突き。欲しいでしょ?」
出会った頃のことを総司も思い出していた……訳ではないらしい。
妖しげな目つきのせいだろうか。総司の言葉には別の妙な意味が含まれているような気がしてならないのだが。
「……そうだな……」
もし万が一まともな意味合いで言っているのならば、逃げを打つのは負けとなる。
が、妙な意味の方だと乗れば確実に負けだ。
唐突さといい抜け目無さといい、突きがどうのより総司の本質が雷光に近いのではないだろうか。
「出来るものなら」
斎藤は当たり障りの無い言葉を返す他無い。