「クラウド。これ、食べてくれない?」
そう言ってデンゼルが指差したのは綺麗なオレンジ色の人参だった。
「なんだ、嫌いなのか?」
クラウド自身偏食な所が無いわけでもないので何とは無しに訊くと、デンゼルは「うん」と少し恥ずかしそうに頷いた。
クラウドは人参を取ってやろうとデンゼルの皿にフォークを伸ばす。
が、その皿にフォークが届く前にティファの手が割り込んで、皿をずらすことでそれを阻止してしまった。
「ダメよデンゼル。ちゃんと人参も食べなきゃ」
「でも、嫌いなんだ」
俯いて言い張るデンゼルを後押しするようにクラウドが言う。
「ティファ、いいじゃないか。人参以外にも栄養豊富な野菜はたくさんあるし、」
「クラウドは黙ってて」
ティファがクラウドを睨んでぴしゃりと言った。
「………」
クラウドは黙った。
デンゼルは二人のやり取りを上目遣いで眺めながら、ふと昔の光景を思い出した。
“デンゼル、ちゃんとブロッコリーも食べなさいって言ったでしょ”
“後で食べる?…駄目よ。あなた前もそう言ってたけど、後で父さんに食べて貰ったこと
母さん知ってるのよ”
“――おい、嫌いなのは仕方ないんじゃないか?そんなに五月蝿く言うなよ”
“あなたは黙ってて、ほらデンゼル……”
「デンゼル。何でもバランス良く食べなきゃ駄目よ」
思い出していたいつかの母さんの言葉にティファの声が重なってすぐ近くから聞こえてきた。
母さんもそうだったけど、女の人はどうして小さくて細かいことをいちいち五月蝿く言うんだろう。
デンゼルは不満に思った。
ちらりとクラウドを見る。目が合った。
……その時クラウドは何も言わなかったのだけれど、デンゼルはクラウドの小さなアイコンタクトに気付き、
その瞬間あの日父親が後でこっそりと耳打ちしてきた言葉を思い出していた。
『女性に逆らうのは、頭の悪い男のやることだよ』
(…………)
あの時はよく分からなかったのだけれど、今なら少し分かる気がする。
だって、クラウドの目も同じことを伝えようとしているみたいだ。そんな風に見える。
目の前には、もう自分の皿に向かってもぐもぐと口を動かし始めたクラウド。
デンゼルは決心した。
(うん、分かったよ父さん、クラウド。
おれも賢い男になる)
わかったよ、とデンゼルはティファに言ってから思い切って人参を飲み込んだ。
「もご」
「偉いわデンゼル! やっぱり男の子ね」
嫌いな物をガマンして食べるのに男も女もあるもんかとデンゼルは思ったけれど、やっぱり逆らう
のはやめておく。
人参はとても不味かったけど、ティファは褒めてくれたし、クラウドが頭を撫でてくれたから
よしとしよう。
かしゃんとフォークを置いてから、デンゼルはちょっとだけ誇らしげに胸を張った。