チラシ





「こんなんじゃダメだ」
  デンゼルがテーブルにばんっと音を立てて置いたのは、ストライフ・デリバリーサービスのチラシだ。
  モノクロの薄っぺらい新聞のようなそれは、はっきり言って他のカラフルな広告に比べて全然目立たない。

『 Strife Delivery Service
  どんな場所にも確実に荷物をお届けします。
  ご依頼は↓まで。
      XX-XXXX-XXXX                』

  内容も淡白だ……。
  デンゼルははあっと嘆息を漏らしてから、クラウドに伝授されたやれやれポーズを取った。
  最近ますます仕草が似てきたわね、とティファはこっそり溜息を吐く。
「こんなんじゃその辺に貼ってあるポスターに紛れちゃって、目立たないじゃないか」
  口を尖らせるデンゼルの文句にクラウドは困惑した。
  確かにチラシの効果があるのかは微妙だとは思うが、今のところ商売は繁盛しているし、何も問題ないではないか。
「別にい……」
「だめ!!」
  クラウドの声を遮ってデンゼルが叫んだ。
  子供の大声に勝てる者などいない。まして今子供に向かっているのはクラウドだ。
「クラウド、仕事先でモンスターの退治することもあるって言ってたじゃないか。 そういうのもできるって宣伝しなきゃ、勿体ないよ!」
「勿体ないって……」
  デンゼルにとってクラウドは憧れだ。
  憧れの人の能力は、もっともっとたくさんの人に認められなければ。
「それにこんな地味なチラシじゃなくてもっとスタイリッシュにして、ちゃんと顔も載せないと」
  これにはティファが大反対した。
「ダメよ! クラウドの顔を載せるのは絶対だめ! やましい気持ちで依頼する奴がこれ以上増えたらどーするのよ!!」
  クラウドははっきり言って美形よ。輝かしい金髪蒼眼なんて王道な パーツを持っている上に人外に強く、しかもかなり整った顔をしてるわ。 可愛いともカッコイイとも言える顔だし、女だけでなく男受けもする、あら嫌だ、私ったら“受ける”だなんて下品ねっ。そういう意味じゃないわ。
  そうそう、それにクラウドは大型バイクを乗りこなすことも出来るし、世間ではヘタレヘタレ言われてるけどやる時はやってくれるし、正直だし、優しいし……etc.
  心の声で惚気たつもりが一部をいつの間にかぶつぶつと口に出して言っていることに、ティファは気付かない。
  クラウドはかぁっと顔を真っ赤に染めて固まってしまった。
  そんなクラウドの顔を見たデンゼルもまた頬を染める。
「クラウド……可愛い……」
  デンゼルの危うい発言にはっとしたティファは慌ててクラウドを後ろに隠した。
「とにかく顔は駄目よ! そうね……シルエットなんてどう?」
「うーん。まぁ、上手く作ればかっこよくなるかもしれないけど」
「でしょ? こう、片手を腰に当てて、片腕で剣を持って、そう、担ぐ感じで……」
  ティファはクラウドを背側から引っ張り出してポーズを取らせ始めた。
  デンゼルもいそいそとそれに加わる。
「いいかも。あ、でもこっちの方が……」
「んー、やっぱり手をこう……ほらクラウド、ちゃんと腕持ち上げて!」
「…………」
「ほら早く」
「………こうか?」
「そうそう。で、足をもうちょっと広げて……」
「あ、いいいい! カッコイイ!」
「でしょ?」
  はしゃぐデンゼルとティファ。げんなりしながらも諦めて二人のお 人形と化しているクラウド。
  そんな三人を呆れた目で見ながら、マリンが雑誌を膝の上に乗せてクッ キーを齧りながらぽつりと言った。
「ティファもデンゼルも、クラウドの仕事が増えて忙しくなってもいいの?」
「「へ?」」
  沈黙と、
  暫くぽりぽりとクッキーの砕かれる音が響き、
「……それは……」
「もちろん……」
  ティファとデンゼルは顔を見合わせ、

「「やだ」」

  と一言、大きく言い放ったのだった……。

  こうしてストライフ家の鶴の一声に漸くクラウドは解放され、チラシは変わることなく地味なまま。
  対して仕事は順調で、話はあっさり納まったのである。
  温かく独占欲の強い家族の愛情を受けて、クラウドはとても幸せだったそうな。









「あんなんで仕事になるんですか?」なチラシ。