冷えた床を音も無く歩く白い寝間着姿が近付くのを待って、沖田は声を掛けた。
「一君」
陰から浮き出るようにすうと現れてやったというのに、斎藤は大して驚くでもない。
可愛げの無い、と沖田は内心舌打ちした。
「……総司か」
「また土方さんの所にいたんだ?」
思った以上に嫌味な響きを持つ声が出たことに自分で驚きながら、「何してたの」と続けそうになる
口を閉じる。そんな分かりきったことを尋ねたところで斎藤の返答は決まっている。
「関係無いだろう」
案の定動揺の欠片も無い声音が返って来た。
「そうだね。関係無いよね。でもさ」
一息の内に距離を詰めて顔を覗き込み
「今日は僕、独り寝が寂しい日なんだ。……付き合ってくれるよね」
君は土方さんの後で僕じゃキツイかもしれないけど。
射抜くように睨みつけねっとりと囁けば、斎藤の眸が戸惑ったように揺れた。
否やは言わせないつもりなのが伝わったのだろうか。返事も待たず乱暴に手を掴むと、沖田は夜半というこ
とも全く考慮しない足取りで自分の部屋へ向かい出す。
「おいっ、総司」
声を潜めて諫めてくる斎藤を沖田は無視した。
嫌ならば殺す気で抵抗すればいいし、斎藤はそうする男だ。そうしないのは、抱かれても構わないと
思っているから。
斎藤が諦めたように溜息を吐くのが背後から聞こえた。
契ることを許されるのは信と情の証。
だが、それでも沖田は及ばないのだ。土方という彼の中の絶対に。
(いいよ、今はそれで)
拒まずに受け止めてくれるなら、今はそれでいい。
滾る想いをぶつけるように斎藤を部屋に押し込んで、
ピシャリ
障子を閉めた。