止まない雨





  薄墨色の空が大粒の涙を流す日、俺はいつもこんな風にクラウドを外から眺めていた。
  コンクリの壁の四角い枠の中にクラウドが見える。あいつは何をするでもなくぼんやりと窓際から外を見て、 その儘何分も立ち尽くしていた。いつもいつも寂しそうに見える。そして窓際を去る時、一度だけ天を仰いでから 一束の花を挿した小さな花瓶を窓の前に残していく。
  花になんて興味の無かった奴なのに。いつの間に好きになったんだろう。
  花が好きならエアリスを紹介してやらなくちゃな、と俺は嬉しくなった。クラウドなら彼女ときっと良い友達になれる。

  次の日も雨だった。最近毎日降っている気がする。
  俺は雨が嫌いだ。でも同時に好きでもあった。雨の日はクラウドに会えるから。
  今日もクラウドは窓際に花を置く。そういえば、それがいつも同じ花であることに 気付いた。白と黄色の小さな花。アンモビウム。花言葉は確か――――

  珍しく空が晴れた。
  湿り気無い空気、空には白い浮雲。間違いなく良い天気なのに俺にはつまらない。
  丘の上に立って俺はクラウドを想っていた。クラウドに会いたい。雨の日しか会えない、 クラウドに会いたい。
  不意にバイクの音がした。俺も乗っていたから分かる、排気音は、大型のそれ。
  砂埃を引き連れて俺の前に一台のバイクが止まった。クラウドが乗っていた。
  ……どうしてクラウドが?
  クラウドがこんなバイクに乗れたなんて、俺は知らなかった。
  クラウドが降りてこっちに歩いて来る。その手にはいつもの花。その手がすっと伸びてきた。
  会いに来てくれたんだな。
  俺はクラウドの手を取ろうと自分も手を伸ばした。
  やっとクラウドに触れる。溢れ出る喜びの中でそう思った刹那、
  すい
  と
  クラウドの手が俺の中を通り抜けて行った。
  小さな花が俺の胸を抜けて、しゃがむクラウドと共に地面に落ちていく。
  俺は呆然と立ち竦んだ。ああそうか俺はもう
  唐突に湧き上がるこの絶望を何と言えばいいんだろう。
  ぽた、と何かが零れたのに気が付いて視線を下げると、俺の全身はぐっしょりと濡れていた。 水滴が幾つも体を這うように流れ落ち、そしてそれは俺の体に出来た窪みへと染み込んでいく。
  俺の体は蜂の巣で、無数の穴から止め処無く血が流れ出ていた。そこに混じる透明の水でそれは滲み、薄赤い血溜りのようになる。
  それなのに僅かな痛みすら無いのは、俺がもう、死んでいるから。
  クラウドが背中から剣を抜いた。ぼろぼろのバスターソード。刃毀れした、戦い抜いた戦士の剣。
  お前、ずっと……
  俺は震える指で剣を撫でた。
  戦ってきたんだな、クラウド。
  俺の死後にクラウドが歩んで来た道が目に浮かんだ。
  剣が全てを語る。そんな風にクラウドに教えたのは、俺だったから。
「守ってくれてたよ」
  クラウドの声が聞こえた。その言葉で我に返る。顔を上げればクラウドが笑っていた。
  寂しそうに、泣きそうにひっそりと。顔の作りが大人びたのに、それは確かに少年のクラウドのそれだった。 変わったのに変わらないものが其処に在る。クラウドが、ちゃんと生きて、話して、泣いて、笑っていること。
  俺はお前を守れたんだな?
  縋るような気持ちだった。
  ずっとずっと、お前だけが心配だったから。
  そう言うと、クラウドの手が俺の手に重なった。
「有難うザックス。ずっと大好きだった。……これからも、ずっと」
  ――――――その言葉で、俺は。
  死んだことも、絶望すらどうでもいいと思えて。
  クラウドの手がそっと離れていく。俺はそれを追いたくて、けれど追わなかった。
  クラウドが剣を掲げる。目を閉じて祈りのように柄を額に付けるのを、俺はただ見守っていた。
  やがてクラウドが目を開く。覚悟を決めたように。
  俺は目を閉じる。その手が持ち上がり地に突き刺さる剣が丘の墓標と化した時、俺は消えるのだろうから。
  クラウドが剣を上げた。

  さようなら、クラウド

  次の瞬間、俺は消えた。
  後に一粒の雨を落として。











アンモビウム(別名 貝細工)
花言葉は「永遠の悲しみ」「不変の誓い」