ぐっしょりと水を吸った着物で屯所に戻った。
足元の土のどろりとした感触は心地悪いが、桶をひっくり返したようなこの雨が死体は兎も角血溜まりを
流してくれるから都合は良い。
轟く雷鳴も人の往来を遠ざける。こんな日は都合が良かった。
空をカッと照らす稲光が邸の前に人影を映し出す。見慣れたそれは傘を差し、泥状の土を踏み締めながら
こちらに近付いて来た。――総司だ。
「暗殺お疲れ様」
にこりと人好きのする笑みを浮かべながら毒を吐くように言う。この男独特の口調だった。
彼が腕を差し伸べてきて、次の瞬間ぐっと腕を取られ彼の傘の下に引っ張り込まれる。
「ああ、雨と土と……血の匂いがするね」
君の纏うこの匂いが好きだな。
総司が耳元でうっとりと目を細めたのが分かった。
「鼻がいい」
擦り寄るような仕草が如何にも動物的で笑ってしまう。
殺め慣れた狩る者だけに馴染む臭い。何時この血が体内から噴き出したのか、命が失せたのは今より
どれだけ前のことか、そんなことすら分かってしまいそうな――。
「貰ってあげようか?」
血の残り香。他者の残滓を。
既に煩わしさなど皆無でも、貰ってくれると言うならば拒まない。
肌を合わせて、消してしまおう。
「頼む」
血塗られた体二つ。血で血を洗うように抱き合っていたい。
命を奪ってきた数は多分斎藤>沖田。