『その危うさが好きだ』
胸を大きく裂かれ血溜まりに横臥しながら男が言った。
息絶える前、斎藤の目を凝視して何かを探り当てたような顔をした後の、一言だった。
「仕留めたようだな」
亥の刻、すっと障子を開けて入って来た斎藤の顔を見るなり土方が言った。
「は」
短く答え斎藤は土方の前に膝を揃え座す。
「羅刹とは無関係でしたが此方に抵抗した為斬りました。後の事は山崎君に任せましたので、いずれ辻斬りの身元も知れましょう」
斎藤の装いは常のものではなく紅の小花柄をあしらった派手な小袖を身に着けている。薄く紅をさし、
項を出して束ねた髪には梅花彫りの平打簪を差していた。
「ごくろうだった」
その全ては今回の隊務の為に誂えたものだ。
夕刻から夜半に至るまでに道行く一人きりの女――それも朱や紅の着物を纏った女ばかりを狙って辻斬りを
行う者が出たのは二十日ばかり前のこと。
新選組も報告を受け直ぐに見廻りを強化したのだが、察知するのが巧いのか隊士達の前に下手人は姿を現さず、巡察の最中にまで
警戒網を掻い潜って辻斬りは出た。
事件発生から既に六人の女の死体が出来上がったところで土方は遂に斎藤に命じる。
女の容相で夜歩きし引っ掛かった下手人を捕縛又は始末しろ、と。
新選組の名を落とさぬ為にこれ以上ぐずぐずしてはいられず、囮として敵を誘い即時に確実に仕留めることが出来るのは
斎藤以外にいなかった。
「どんな奴だった?」
斎藤の着物の鮮やかな赤を目に映し、女の死体を思い出しながら土方は訊ねる。
辻斬りに襲われた女を見たが、そのどれもが着物の小片が辺りに散らばる程無惨に切り刻まれていた。しかも髪はばっさ
りと切り取られ持ち去られているという奇妙なもので、目的を持って殺めたのでなく只愉しむ為に殺したという趣があった。
そんなことをする辻斬りとはどのような奴だろう。
「上背も歳も総司と同じ程で、冷静さと凶暴さを持ち合わせたような男でした。刀は荒いがそれなりの使い手で、顔が……」
そこで何故か斎藤が口籠もり土方は首を傾げた。
「ん?」
「……ほんの僅かですが、副長に似ていました」
「俺に?」
聞いた瞬間土方はくっと喉を鳴らして吹き出した。
「はっ……俺にって、そりゃまた面白い奴に会ったもんだ」
「申し訳ありません」
気を悪くさせたと思い斎藤は直ぐに謝辞を述べ、実際土方も面白くは思ったもののあまりいい気はしなかった。
自分の顔に少しでも似た者がいるということは己の顔がその辺によく在るもの、個としての特徴が薄いと言われているよう
な偏屈な受け取り方をするのが土方だ。
土方は斎藤の薄く化粧を施した顔をじっと見つめ、その白くたおやかな首に手を伸ばした。指先で喉をすっと横に切る仕草をして
「で? どうだった、俺に似た奴を斬ってきた感想は」
とからかうと斎藤は形の良い眉を思い切り顰めた。
「やめて下さい。気分が良い筈は無いでしょう。……あのように女を無意味に嬲り殺す辻斬りと貴方が、顔だけとはいえ微塵も似
ているとは思いたくない」
「…………」
高低が少なく感情の出にくい口調だが、視線だけは何よりも鋭い。惨く命を奪われた女達……それを享楽の為に行った辻斬りの正体が
土方に似た顔を持つ男だったことが、斎藤には気に入らないのだろう。
見え隠れする感情の激しさが、今は華奢な女の形をしているからこそ余計に浮き上がって色めいて見えた。
吸い寄せられるように土方は斎藤の眸を見つめる。
「いい目だ」
髪に手をやり簪を抜き取って元結の紙捻を外す。解かれた髪がぱらりと落ちて項を隠すのを簪を持つ手で退かせた。
髪を一房取り口付ける。
「何処から見てもいい女だな。そんな目にその格好じゃぁ――そそられちまう」
正座した斎藤の揃えた脚の溝をつっと着物の上から付け根まで撫でた。
「、副長」
「ん?」
「何を……」
「言ったろ? そそられたってな」
軽く口角を上げると土方は左手で斎藤の肩を押し右手で髪を後ろに引っ張るようにして一息に斎藤を押し倒した。
勝色の髪がさっと広がる。土方は急激に接近した顔の僅かな隙間も埋めるように斎藤に口付けた。
「ん」
強く柔く何度も唇を食んでくる土方に斎藤も徐々にだが応え始め、中へは侵入しない味見のような口付けを幾度か交わした後
「紅が……」
土方の唇に付いた紅を拭おうと下になった斎藤が手を伸ばした。土方はその指先を右手に捕らえて畳に押しつける。にやりと見下ろし
ながら自らの唇を親指でぴっと拭った。
「女と同じ物を使ってても味はそう変わらねぇな」
こっちはどうかな、と土方は腰を撫でた。
「……するんですか」
俺は出来ればこの格好では、と斎藤は口ばかりの拒絶を見せたが
「殺した後は昂るだろ」
と見透かしてやれば薄らと唇を笑みにした。
「そんなことを言ったら俺はいつも昂っていることになる」
「少なくとも――今はそうだろ?」
斎藤の後ろに手を回し邪魔な黒地の帯をしゅるりと解く。もう一度口付けを受けながら斎藤は腰を浮かせ自らも帯を引くことで土方を
手伝った。
腹部を締めていたものが完全に緩むと斎藤の着物は左右に開かれた。裏地のえんじが畳に広がり斎藤を引き立てて、その場の空気を一層
艶やかなものにする。
「小袖が布団代わりだな」
「……借り物ですよ」
「洗やいいさ」
土方は無遠慮に斎藤の襦袢の合わせ目に手を入れた。掌を滑らすようにして白布を押し退けていくと同時に首筋に顔を埋める。
痕を残すように吸いついて下へ下へと下り、指は淫らに肌の上を這い回った。
「ふっ、」
胸の突起をキュッと摘まれ指の腹で擦られる。捏ねるような刺激を与えられ斎藤は声を上げた。
もう片方の蕾はちろちろと舌先に弄られていて、唾液に湿らされたそこがひやりとした。
「……っ」
時折歯を立てて痺れるような刺激を与えながら、土方は右手を斎藤の脇腹へ移し裾避けをずらしていく。
そうして下半身を覆う全てを除いてしまうと隠す物の無くなった太股へと手を這わせた。
斎藤の斜めに立てていた片方の膝が無意識に揺れる。土方は露わにさせた斎藤自身に指を絡めた。
「……う」
背を強張らせた斎藤を焦らすようにそろりと撫でたかと思えば唐突に強く擦り上げる。
快感が次々に紡ぎ出されていく中で、土方の舌が臍の横から上へと上って行って再び胸に刺激を与えた。赤く色付いた突起を唇で
挟み引っ張っては舌で押し潰す。斎藤の唇に土方の唇が落ちてきて今度は激しく舌に舌を絡められた。
「ふぁっ……」
敏感な幾つもの場所から与えられる刺激で斎藤は速く感じていく。視界をうっすらと水の膜が覆い、下半身が汗と先走りで濡れていた。それを見て取ると土方は唐突に斎藤の婀娜めく脚を持ち上げた。指を軽く舐めて唾液で濡らし
「……あっ…!」
斎藤の後孔に指を挿し入れた。それは何度か慣らすように入り口を前後してからず、と身体の奥底に侵入してくる。
「はッ…ぁ…っ」
何とか意識して力を抜く斎藤に甘え、土方の指は我が物顔でその中を行き来していた。
「そうやって力抜いてろよ」
幼子を宥めるような優しげな口調でそう言うと、土方は指の数を増やし斎藤の内壁をぐっと広げた。指をばらばらに蠢かせては擦り
中を好き勝手に弄繰り回す。痛みと苦しさと違和感と、その全てに耐えようと斎藤は土方の二の腕にしがみついた。だがビリビリと体を奔る激しい快感だけはどう
しても消せない。
「ハ……っ……ぁ、んぅ!」
土方の指が斎藤の最も感じる場所を突いた。どうすれば斎藤が弱るのかを知り尽くしている指はそこばかりを狙い、幾度もしつこく弱点ばかりを突かれ攻められ、斎藤の頭が急激に白く濁っていった。
「っぁ!」
ぶるりと斎藤の肩が揺れた。齎されるものに堪らず内壁がきゅっと土方の指を締め付けると、それに合わせ指がこれまでで最も強く
体内を擦り上げた。
強烈な刺激に背を弓なりに仰け反らせ斎藤は
「―――!」
声も無く達した。呆気ない欲望の飛翔を眺め土方はニヤリと笑む。
「イったな」
快楽に潤んだ眸で彼を見つめながら斎藤ははぁはぁと肩で大きく息をした。目尻が湿り硬直の解けた体がとても熱い。
「後ろでイく時の顔女みてェだった」
「……………」
可笑しそうに笑う土方に斎藤は上気した顔で恨めしげな視線を返す。
(前もしたくせに)
本当に後ろだけで達した訳ではない。他を触られた名残があったからだと歯噛みする思いで口に出さず言い訳を述べた。ただ――
(確かに今宵は少し、昂っている)
上方にある土方の顔から目を逸らし、己を抱くこの男によく似た顔の、先刻の男を思い出した。
あの時、殺す気で抜刀した刹那目に入った顔に躊躇した。本当は僅かに、でなくよく似ていて、互いの顔を突き合わせて戦うことに心を
細波程だが乱された。紫煙のように妖しげな目、綺麗な形象に見え隠れする獰猛さ。
本当に、よく似ていたのだ。
「オイ、余所見してんじゃねぇ」
「っ」
斎藤の目が何処か別のものを映していることに気付いたらしい。土方は斎藤の内部に埋めた儘だった指をズプリと音を立てて引き抜いた。
「まだ終わってねぇだろ?」
斎藤の両膝を掴み自分の上半身を低くして伸び上がるように斎藤の顔に囁いてから、土方はその両腿に横から力を加えて
倒した。同時に斎藤の腰に手をやって太股の倒れた方と同じ向きに斎藤を転がす。
体勢の変化に手をつき対応した斎藤の脚を無理矢理に引っ張り斎藤が四つん這いになるように反転させた。
「土方さ、ぁ、ああッ……!」
何時の間に準備していたのか、先程まで指で弄られていた箇所に今度はより熱く太い物が押し入ってくる。
「イ、っッ」
ゆるゆると押し込められる圧迫感に掌や額から汗が吹き出した。体を支える肘が崩れそうになるのを斎藤は何とか堪える。だが土方は
「折角なんだ、女を抱くようにやってやるよ」
宣言し、斎藤の腰を掴んで激しく動き出した。
「あッ…ンっ……はぁっ」
女を抱くようにというのは自分の好きなように動くということらしい。
その動きはいつもよりずっと性急で身勝手なもので、女と構造の違う男の体を抱く時の気遣いや優しさが全く見えない。こんな風に
抱かれるのは初めてのことだった。
「っあ! ひ、じかたさ…っ」
律動に合わせ斎藤の腰がゆさゆさと揺れる。引き裂かんばかりに押し広げられた中に土方が入り込み傍若無人に突き込んでいた。
奥をぐっと抉ったかと思えばずるりと引き出されまた突き入れられる。火傷しそうな程に痛みが酷い。
なのにそれと同じだけ気持ちが良い。
「ク……ぅ…ん…あ、あぁっ」
四足の獣のような体勢で斎藤は啼いた。皺の付いた紅の着物が摺り落ちた状態で肌に引っ掛かり、腰には帯が中途半端に絡んでいる。
その光景はぞくぞくするほど扇情的だった。
「お前が……そんな格好してるから、手加減なんて出来やしねぇ……っ」
「ン、ぁあッ」
二人分の動きと重みで藺草の跡が付いた斎藤の膝がのめって赤い着物の裾を踏んだ。すかさず土方の腰が追い掛けて来る。
「その赤……似合ってるぜ」
掠れた土方の声が耳に響き、その言葉に斎藤ははっと目を見開いた。
それはあの辻斬りの男を斬り、男が息絶える前に口にした言葉――それと同じだったのだ。
『その赤、似合ってるぜ』
己が襲い己を逆に討った者の正体が男であったことに気付いた後の、男の赤と死に陶酔したような顔。
血塗れになりながらも至福の表情を見せたのが脳裏に鮮明に蘇って、恍惚としたその眸が頭の中で今の土方と重なって見えた。
(そうか、俺は)
自分がどうして今宵こんなにも昂っているのかを斎藤は悟る。
先程殺した男と同じ顔に今犯されていることを。否、今己を犯す者と似た顔を先刻殺したことを、……その特異な状況を意識して、
己は高揚しているのだ。
意識した途端ますます昂って内股を体液がつうと滑っていった。その液を絡めながら土方の指が斎藤の前に回される。
「斎藤……」
「っ、ァあッ…」
斎藤の艶めく姿態に土方もまた興奮し、半身が更に硬さを増したような気がした。これ以上無い程に斎藤は求められる。耳を打つ水音
と強い衝撃と。体中がそれだけを伝えてきて、時に円を描くようにあらゆる角度で突き上げられる斎藤の脚がガクガクと震えた。
「ひ、じか……も、やめ……っ」
限界まで追い詰められて、遂に斎藤は首だけを懸命に捻り背後の土方に願った。だが斎藤のどんな音色も今は土方を煽るしか無い。
平素弱音を吐かない斎藤だからこその威力も加わり振り返る淫らな顔に土方が魅入られたように目を細めた。
「その目だよ……」
「んんっ!」
止まるどころか斎藤の身体を押し潰し深く突き挿しながら、斎藤の頭をがっと鷲掴む。
そうして下半身と同じ程の強さできつく唇を合わせた。口端から唾液が伝うのも厭わず激しく舌を絡めてから、最後の高みに向
けた揺さ振りを始める。
「その目が良い、お前は……っ」
「っく、ぅっ……は、……んっ」
激しい土方の突き上げに喘ぎしか返せない。斎藤の中心部を下から上へゾクリと突き抜けるような感覚が疾り、
「どんな女より、お前が……」
最後に聞こえたのはそんな言葉だった。
「は、ぁあ――――ッ!」
深く抉られ極みに達した斎藤の奥に熱いものが注がれる。耐えかねた斎藤の身体がガクリと頽れ、
二人の白濁が斎藤の臀部から腿にかけて混じり落ちていった。
「は…………、…………っ」
斎藤は引き攣った吐息を洩らしながら呼吸を元に戻そうと全身で専念している。震える体が纏う借り物の着物はぐしゃぐしゃだった。
荒い呼吸で上気した横顔、涙に潤み視線の定まっていない目、乱れた髪、唇の上からずれた紅の赤。
そのどれもがさながら陵辱された女のように見えた。
着せたのが自分なら脱がせたのもこのような姿にしたのも全て自分、と思った時、土方の心が強い充足感に満ちる。
(どんな女より――)
官能的で綺麗だ。
だが外見だけではない。無論性別でもない。
一見理性も良識も有り濁り無く見えるのに、殺伐とした感情を斎藤は心に当然のように宿している。
(本当はかなり似てたのかもしれねぇな)
斎藤が斬って来たという辻斬りの男……斎藤の反応を見るに、もしかしたら僅かにでなく、自分にかなり似ていたのではないかと土方
は思う。
そして斎藤の、女を惨殺するような男への侮蔑を持ちながら、己がついさっき殺した相手と酷似した顔に抱かれて昂ることが出来るような矛盾した危うさがとても――
「土方、……さん?」
掠れた声が土方を呼ぶ。
赤の似合う男が艶やかに誘うように土方を見ていた。
(こいつに殺される瞬間はどんなもんだろうな)
ふとそれを想像してみて、この男に殺された辻斬りの男もまた、自分に似た顔だというのならきっと死に際の思考も似通っていたことだろうと土方は可笑しくなった。
図らずも土方が口にしたのは
「その危うさが好きだ」
この世に“彼”は二人要らない。とか斎藤は思ってるんじゃないかと。
ノリ気→音を上げる斎藤が書きたかった…。