play・2





  アーシェは兄ばかりに囲まれて育った所為か昔からおてんば で悪戯好きな女の子だった。
  幼い頃は一日中庭内を散策して家臣は城中を探し回らなければならなかったし、怖がるのではないかと周囲が 懸念したチョコボだって すぐに乗りこなしてしまった。
  ……何の話かというと、アーシェは元来活発で遊び心のある女性である為、先日 自分をさも可笑しそうに笑ってくれたバルフレアに今仕返しをしてやろうとしているという話だ。

  そわそわと弾む胸を抑え、深 呼吸をしてからよしと頷きアーシェはバルフレアへそろそろと近付いていった。
  あちらに先に気付かれては駄目なのだ。ここは慎重にしなければ、とアーシェは気合を入れて進んだ。
  出来る限り普段と同じ声、同じ態度を心掛けて、寛ぐ彼の右肩にそろりと手を伸ばす。
  指先が肩に触れる時、
「バルフレア」
  茶髪の後頭部を見つめつつ振り返る瞬間を決して 逃さぬよう、アーシェは集中して声を掛けた。
  肩にそっと置かれた手の感触にバルフレア の首が僅かに動いた――と思った瞬間、急ぎ持ち上げたアーシェの人差指の先はつんと彼の頬に刺 さる……
  ことはなく、易々とかわしたバルフレアの手にやんわりと捕らえられていた。
「!」
「甘いな」
  ついと引かれ、白く細い手の甲に口付けが贈られる。
  唇を離したバルフレアのにやりと不敵な笑みを眼前に、アーシェは寸時固まった後頬を薄紅に染めた。
「……何故分かったのですか?」
  バルフレアの口振りから自分の目論見がば れていたことを知って、 アーシェは悔しそうな子供のような表情をし、それを眺めるバルフレアはといえば余裕の笑み だ。
「負けず嫌いの王女様のことだ、仕掛けてくるのは予想してたし、俺を呼んだ声がいつもと 違ったからな」
「そんなに違った? ヴァンには気付かれなかったのに」
「俺をあのボウヤと 一緒にされちゃ困るね」
  クールに言い放つバルフレアに反論したいものの、尤もな気がしてアーシェは 諦めて溜息を吐く。
「……悔しいわ」
「ま、精進するこった。何度でもチャレンジしていいぜ? 姫の御手にキスが出来るな んてめったに無い嬉戯だ」
  どうせアーシェは何度挑戦しても失敗するに決まってると言外に匂わすバルフレアの言葉に、 アーシェはぱっと手を引っ込めてからむっとして言った。
「貴方には二度としません」
「賢明だな」
  バルフレアはさらりと一言。アーシェは息を吸い込んで更にむうっとした。
  彼女がもっと幼ければ頬が膨らんでフグのようになったかもしれない。
  アーシェは顎に手を当てて考え直す。
  挑戦をすれば失敗して悔しい想いをするかもしれないが、 挑戦をやめればバルフレアへの敗北を認めることになる。
  そんな二択を仕掛けられているのだ。
  どちらにしてもバルフレアの思う壺な気がする。
  ならば――とアーシェはバルフレアにくるり と背を向けた。
  やらずに負けるよりはやった方が良いに決まっている。
  アーシェの心中を覗いたように口角を上げたバルフレアに、アーシェは振り向きざまにびしっ と言った。
「覚悟してらっしゃい」
  そうして柔らかな髪を風に靡かせてつかつかと歩き去っていく王女は、何処までもマジメ でまっすぐ、そして勝気であった――。
  勝負の行方がどうなったのかは二人のみぞ知る。









           
何度も挑んでちゅーされるがいいよ。