結局、“雲”の実体に迫れるような情報は得られなかった気がする。
彼女程の情報屋でも正体を掴めないという暗殺者。
ただ分かったことは、彼が確かに秀でた殺し屋であるということ。
合理的な殺しを出来るということは、標的までの的確なルートを取り隠密に行動し、そして姿を暴かれる前に瞬時に護衛の意識を奪える
優れた技術があるということ。
相当な実力者に他ならない。となると気になるのはやはり例外的だというケースのことだ。
殺しを好む暗殺者は珍しくないが、雲は完全にそのタイプとはいえない。しかし敢えて残虐な殺しをしたとなればそのタイプに入る。
理性的であり衝動的、合理的であり感情的。それではまるで二重人格のようだ。
それか、彼女の言ったように単なる気まぐれなのか。
(しかし……)
スコールはもう一つ気になっていた。
最近では非合理的なケースが減っている、という彼女の情報。
大して気に留める必要も無い気もするが、どうしても何か引っ掛かるのだ。
何故、最近は減っているのか。減っているということが彼の性質と何か関係があるのか。
「―――い、」
(意味することが何かあるのか?)
「おい……、おい! スコールッ」
少ない情報から新たな情報を得ようと思索に耽っていたスコールの意識を呼び戻したのは耳元で響いたサイファーの怒鳴り声だった。
スコールははっと大きく目を瞬かせその儘機械的に隣に視線を移す。
執務室への固く閉ざされた扉を挟んで立っていた筈のサイファーはいつの間にかスコールのすぐ横にまでやって来ていた。
「あ? ……何だ、サイファー」
「何だじゃねぇよ、ぼーっとしやがって。任務中だって分かってんのか?」
腰に片手を当て仁王立ちしているサイファーは苛立ったように髪をくしゃりと掻き上げた。
ガーデンの問題児と名高い彼に窘められてしまったことに苦笑を漏らしながらもスコールはその常と違う彼の様子に気付く。
「……何を苛ついてるんだ?」
そういえば、いつも調子に乗った自信過剰なことばかり吐く口は今日は殆ど閉ざされていた。
今迄気に留めていなかったが、揶揄や挑発も影を潜め必要事項しか喋らないサイファーは珍しい。
少なくともこれまでは、今回のように強敵が相手の場合寧ろ口数が増え楽しげな様子を見せていたというのに。
「別に苛立ってねぇよ。ただ、なんっか落ち着かなくてな」
サイファーが軽く息を吐いて答え、それからスコールに真っ直ぐに視線を向けた。
「……お前も同じじゃねーか?」
「……」
思いがけず言い当てられスコールは黙り込む。
恐怖、ではないが、何か予感めいた胸のざわつきを、サイファーも感じているのだろうか。
どんな侵入者があろうと防ぐ自信はある。
ある筈で、それだけの経験も力も持っていると、この大統領室への最後の砦を守る両者とも自負している筈だ。
第一、此処までの道には他のSeeDが幾人も配置されている。
侵入者がどれだけの実力者だとしても、この場に易々と足を踏み入れることは叶わないだろう。
……それでも、予感が消えない。
認識が甘いのではないか?
敵が此処まで来られないと考えているのは、大きな間違いではないか?
――――直後、その予感は的中する。
← →