スコールの耳に着けた通信機から耳障りな雑音と共に突如切迫した声が飛び込んできた。
「っB……異じょ……生ッ……入者……」
“B班異常発生、侵入者あり”
「ゼル!?」
切れ切れの声に荒い息が混じっていたがそれはゼルの声だ。通信は異常を告げる言葉だけを残しすぐに切れ、スコール
はさっと顔色を変える。
(B! 近い)
まさかという思いを押し込め、スコールとサイファーは異常事態にも冷静に迅速に剣を抜いた。
B班は最もこの執務室に近いポイントを守っていた。他班からの連絡が無いことも気になったが、それよりもBで異
常が発生したということはこの場所が危ない。
迎え撃つ準備は出来ているが既に接近しているならこれ以上近づけたくない。
他の者なら兎も角サイファーになら一時この場を任せられる。
そう判断したスコールはサイファーに待機を命じ自分は駆け出そうとした。
“――来るぞ”
頭の中に聞き慣れない低音が響いたのはまさにその時。
それがあちらから呼び掛けることなどめったにないジャンクションしたGF・イフリートの声だと認識した瞬間、スコール
は咄嗟に手にしたガンブレードを前に構えていた。
襲撃はあまりにも早く、そして突然だった。
「く……ッ」
突き抜けるような蒼い暴風が一気に押し寄せ、その直線の軌道にいたスコールとサイファーを直撃したのだ。
ガンブレードを盾にしなければどうなっていたか分からない。
ちらりと後方を見るとサイファーも同様に剣を構えて防いでいた。
攻撃が床を抉った所為か砂塵が舞う。その不明瞭な視界にす、と影が映った。
同時に風を切る音。
スコールは反射的にガンブレードを下から上へ振り上げていた。
鋭い音を立てて斜めに剣がぶつかる。
その衝撃の重さに驚く間も無く剣は直ぐに離れた。
敵の右後方に回り込んだサイファーが剣を振り翳した為だ。
敵はそれを避ける為スコールの剣を弾き後方に飛ぶと思われた。
サイファーの剣は速い。少なくともスコールの常識ではそれがこの状況の回避の唯一の手段であった。
ところが。
ギィン、と鈍い音が轟いた刹那、スコールは愕然とした。
敵が間近で剣の柄に左手だけを残し、空いた右手がするりと動いたことをスコールは確かにその目に捕らえていたかもし
れない。しかし有り得ない状況に声が出なかった。
「……!?」
サイファーでさえ大きく目を見張っている。
敵の身に着けた黒衣から覗く腕の先、その手首に嵌められたバングルだけで、彼はサイファーの太刀を受け止めていたのだ。
数センチ狂えば腕が飛ぶ、剣の軌道を完全に読んでこそ出来る芸当。それだけではない。
ガンブレードの重量もそれに加わるサイファーの膂力も、決して片手だけで、それも手首でなど易々と受けられる筈が無いのだ。
普通なら骨が砕けておかしくない。
だが彼はその儘手首でサイファーを押し飛ばし、スコールの剣も弾き飛ばすと、軽やかに宙を回転し彼らとの
距離を取った。
バングルは、不可思議にも割れていない。そこに装飾品のように嵌め込まれた真紅の珠が、僅かに発光していた。
この少しの間に、スコールはここにきて漸く敵を観察することが出来た。
全身を包むように目深に被った外套の所為で顔はよく見えない。だが隙間から零れる前髪は金、だろうか。
闇に溶け込むような黒ずくめの格好で、体型は正確には分からないが、恐らく細い。
(こいつが、雲……)
寸時の攻防であったが、敵の実力を推し量るには充分な時間だった。
スコールの睨むような視線にも構わず、男は左手の剣を再び右に持ち替えながら、剣の柄と刃の間に指を滑らせる。
その剣は二種類の剣を組み合わせ一本を装った特殊な剣であった。ストッパーを外しもう一本を解放すると男は左手にそれを握った。
(二人同時に相手をするつもりか)
悠然としてSeeD二人に対し全く怯みを見せないその物静かな態度にスコールは不快を感じ戦意と敵意を募らせる。
サイファーもまた自尊心と闘争心を刺激されたようである。両者共にガンブレードを両手で握り直し、構える。
先に動いたのはスコールであった。
地を蹴って袈裟切りに振り下ろす。止められることは想定内だ。
剣がぶつかった瞬間擦るように刃に剣を滑らせ横薙ぎに振った。
敵を捕らえられず空を切った剣に上からの衝撃。敵はガンブレードの切っ先を弾くように剣を下ろしていた。
その儘持っていかれそうになるも指に力を込め堪える。
と、サイファーが敵に突きを繰り出していた。上に跳び回避した男をサイファーが追い掛ける。
逆袈裟に一閃。男は仰け反りかわしていた。
スコールも追い男の横から脇腹を狙う。
だが男は難なくスコールの刃を右の剣で受け止めると、続くサイファーの攻撃も左手でかわした。
身を捻るようにして回転を加えながらスコールとサイファーを弾き飛ばす。
両方向へ飛ばされ、スコールは直ぐに体勢を直すことが出来たがサイファーは僅かに遅れた。
男が一瞬の内に接近し右手を振り被り、崩れた体勢のサイファーを襲う。
「サイファー!」
スコールが叫ぶ。
しかしサイファーは冷静だった。
素早く転がり避けた剣先が床に突き刺さるのを鼻先で見ながら体勢を立て直したのだ。
それでも敵の容赦無い連撃は降り注ぐ。
「ぐっ、」
重すぎる一撃を何度も受けハイペリオンが戦慄くように振動した。手首の骨が軋む。
足に力を込め踏み止まるサイファーだが限界は近い。
スコールは既に詠唱に入っていた。
イフリートをジャンクションしている今炎の魔法の効果は通常よりずっと高くなる。
充分に力が高まった瞬間スコールは手を突き出し炎を放った。
「!」
迫る熱に気付き敵が剣を引く。その隙をサイファーは逃さなかった。
下方から右上へと剣を出す。
トリガーを引いた。
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