「いきなりだな……」
スコールは戸惑いながらもクラウドを凝視する。
「どうして急に?」
外見的な変化は何も見られないのに、確かに声を出して喋っている。
一体何故。
「もしかしたら」
クラウドは顎に手を当て呟いた。
「さっきのエスナか万能薬が、今頃効いたのかもしれないな」
「今頃?」
「ああ。こんな遅効性は初めてだが、原因として有力なのはそれだろう。
どうして言葉だけ治ったのかは分からないけど」
中途半端すぎる。
どうせなら体のサイズが元に戻るとか全身がちゃんと人体
に戻れば良かったのに。
いや、人体に戻れば文句無しなのだが、カエルのままサイズだけ大きく戻るよりはやっぱ
り言葉だけ治って良かっただろうか。
こんな体で大きくなったら目立って仕方ない。
(結構綺麗な声だな……)
一方スコールはそんなことを思っていた。
喋るカエルというとどうしてもゲロゲロと濁声で喋りそうなイメージがあるのだが、さらりと
流れるようなクラウドの言葉は耳に心地好い。
今は体の大きさに応じて声も小さいようだが。
そこではたと気付く。
「なら、もう少し待てば体も元に戻るんじゃないか?」
クラウドはいや、と首を捻る。
「だといいんだが、どうだろうな……。
元々俺の体は人とちょっと違うから、それで僅かだけ効いたのかもしれない。これ以上の効果が得られるかどうかは……」
「人と違う?」
「まぁその、……細胞レベルの話だ。気にしないでくれ」
クラウドは何故か言いにくそうに顔を逸らす。
(細胞レベル?)
スコールは首を傾げたが追求はしなかった。
まあどちらにしても討伐は行くだろう? と尋ねてくるクラウドに頷くと、クラウドはそのまま話を変えた。
「そういえばさっきの話の続きだが、恐らく耳栓をすれば防げると思う」
「は?」
スコールは一瞬何のことか分からずに聞き返した。
「だから、タッチミーキング対策のことだ。
お前を待つ間図書館のモンスター関係の本を粗方見てみたんだが、データベース同様に大した情報は無かった。
ただ、さっき俺が読んでいた本……あれには少し詳しいことが載っていて、タッチミーの魔法は全て聴覚を通して作用するらしい
んだ」
「聴覚……」
さっきの本、というと、図書館にやって来た時にクラウドが読んでいたもののことだろうか。
確か、このパソコンスペースに来る前に机に放置してきた。
後で戻せばいいだろうと思ってスコールは何も言わなかったのだが、クラウドもデータベースの
情報に期待していなかったからこそ、本をまたいつでも見られるようそのままにして置いてきたのかもしれない。
「読んでみる」
スコールはパソコンをログアウトしてから席を立ち、読書スペースに戻った。
クラウドもデスクを飛び降りてついて来る。
机上に彼が置いておいた本を持ち上げて、スコールは栞の挟んであるページに目を通した。
「……なるほど」
確かに、クラウドの言ったように書いてある。
「聴覚を通さなければ魔法は効かない。つまり、耳栓をして遮断すればいいと考えられるだろ?」
クラウドの推測にスコールは頷いた。
「確証は無いが有力だな。クラウド、確かにこれと同じ種類のモンスターなんだよな?」
悔しいことにデータベースより役に立つらしいこの本には、小さいがタッチミーのイラストが
載っている。
さっき検索した身体的特徴、そしてこのイラスト。これが確かにクラウドの遭遇したものなのか
どうか確認をとるスコール。
「ああ、間違いない」
クラウドがはっきりと頷くのを確認してから、スコールはもう一つ疑問に思ったことを尋ねた。
「それと、もう一つ気になることがあるんだが」
「何だ?」
「データベースにもあったが、普通のタッチミーは体長三十から四十センチなんだろ? あんたそんなにないみたいなんだが、
人間のカエル化だとサイズも違ってくるのか?
……例えば、元々凄くチビだと変身してもチビとか」
「! 誰がチビだッ。これはミニマムも一緒にかけられているからだ!」
「ミニマム?」
「……名の通り、対象の体を小さくする魔法さ。普通のタッチミーは使わないらしいが、俺が遭遇したタッチミーキ
ングは使ってきた。
因みにカエル状態になると攻撃力は四分の一、ミニマムになるとたったの一になるから気を付けろよ」
スコールの失礼な発言に憤慨しながらクラウドは早口に説明した。
攻撃力の低下と聞いてスコールは嫌そうな顔をする。
「そんなことになったらいつまで経っても戦闘が終わらないな」
「その通り。だから俺はお前達を頼ってるってわけだ。……俺が知っているのはこんなところかな。もういいだろ」
「ああ」
此処で調べ話を聞いたことでかなり重要な情報を得られた。
事前調査はこんなところでいいか、と本を閉じてから棚に戻そうとして、スコールはふと気付く。
「この本、結構重いよな。……他にも何冊か読んだんだろう? あんた、見かけによらず力あるな」
“見かけによらず力がある”は人間だった頃にもよく言われたことなのだが、この場合はきっと見かけ=カエルだろうな、
とクラウドは溜息を吐いた。
スコールはそんなクラウドの溜息を別な風に捉えていた。
「調べておいてくれて助かった。感謝する」
腕をぷるぷるさせながら踏ん張って、本棚から重い本をえっちらおっちら運び出す健気
なカエル。
見るものの同情を誘うようなカエルの姿を想像しながら、スコールは労いを込めて礼を言った。
クラウドはまさかスコールの頭の中にそんな可哀想なイメージが広がっているとは知らず、首を傾げる。
「礼を言われるようなことじゃないだろ。俺が依頼したんだから、仕事を任せた相手に協力するのは当然だ」
その言葉を聞いてスコールは少し意外そうに目を瞠ってから、「だが」と取り繕うように言った。
「何から何まで任せきりだったり、途中で安易に作戦を変更して振り回してくれる依頼者もいるから、それに比べたらあんたは
親切な依頼人だ」
(本重いのにムリして……)と心中で続ける。何だか微妙に噛み合っていない
ことに当人達は気付いていない。
「ああ、確かにそういう客もいるよな」
「……あんた、どうも口振りからして一般人ぽくないんだが、店主以外に何かしているのか?」
「んーまぁ、何でも屋をな」
「何でも屋……」
「そう。傭兵まがいのことも結構するから、そういう仕事の辛さはよく分かる」
(傭兵まがい……か)
彼は自分達SeeDと似たような境遇にいるのだろうか。もしかしたら案外年も近かったりするかもし
れない、とスコールは思った。
うんうんと頷き図書館を出て行こうと歩き出すクラウドに続きながら、
本当にどんな人物なんだろうという彼への興味がこの十数分で更に増したのを感じる。
「それにしても綺麗な学校だよな、此処は」
図書館を出て廊下を歩きながら伸び伸びとクラウドが言った。
「そうか?」
「ああ。平和っぽい雰囲気で落ち着く。居心地がいいな」
ガーデンの廊下に並ぶ植木や流れ落ちる水、それに楽しげに歩く生徒達を眺めて、クラウドは目を
細めた。
明るくて開放感のあるこのガーデンの造りはスコールも気に入っている。
確かに落ち着く雰囲気だし、しかも今の此処には満足げなカエルの姿も加わっているから、尚更
和ませる。
スコールはクラウドに「それは良かった」と返した。
「さて、と」
クラウドがスコールに振り向いた。
「暫くガーデンをぶらついててもいいか? 昨日落し物をしたのを思い出した。探しに行きたいんだ」
「落し物?」
クラウドは頷いた。
「そう。いつも肌身離さず持っているんだが、この姿になっていた所為か気付けなかった。
多分、校門の辺りにあると思うんだ」
下方からじっと見てくるカエルのクラウド。
そんな気は無いのだろうが、何だか強請られているような状況だ。
自分は意外と動物に弱かったのだろうか、と考える。
どちらにしても、スコールはもうクラウドの言葉をいちいち疑うのは止めていた。
「分かった。終わったら、寮のサイファーの部屋に戻ってくれ。今夜は其処に泊まってもらうとサイファーにも話してある」
一人で探せるか? とスコールは無意識に付け足してしまっていた。
らしくもなくお節介なことを、と自分で呆れたが、これは恐らく動物愛護心だと言い訳をする。
クラウドは苦笑していた。
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