SeeDとカエルの三日間・2-6





  その探し物には思いの外手間取った。
  先に遺失物として届けられていないか聞いてみたのだが届けられておらず、 見つかるだろうと見当を付けた場所は昨日クラウドが倒れていた校門の周辺だったのだが、その狭い範囲ではいくら 探しても見つからなかった。
  ミニサイズになった現状態でもそれなりにアレの重量はある筈で、それが今日の天候で風に飛ばされるということは無いだろう。 しかし誰かに蹴り飛ばされて飛んでいってしまったことは充分有り得た。
  そう踏んだクラウドは、まずはコンクリート上の目につく場所をざっと探し、それで発見出来なかった後は ただでさえ歩幅が縮み移動が大変だというのに、ガーデン敷地内の茂みの中を端から端まで自力で探さなければならなかった。
  この体の構造的にピョンピョンと飛び跳ねて移動すればもう少し楽に移動出来たかもしれない。
  しかし人間としての彼のプライドがそうすることを強く拒否した為、結局探し物を見つけ出すまでにあちこちへと歩いて ガーデンの授業ニコマ分も時間が掛かってしまった。
  結果的には見つけることが出来たけれど、散々探した後で、それが校門から大分離れた所の道端の細い溝に嵌るようにして 落ちていたのを発見した時は気疲れで思わず脱力した。
「はぁ……」
(本当に、早く元の体に戻りたい)
  同じ探すという行為でも元の体ならここまで疲れなかっただろう。
  取り敢えず落し物が見つかったことで安堵と疲弊の吐息を零したクラウドは、この体になって衰えた体力を心底恨めし く思った。
  ……その後はというと、クラウドは保健室に行っていた。
  といっても別に身体に異常が(カエルということ以外)あった訳では無い。
  クラウドはスコールにサイファーの部屋に戻れと言われてはいたものの、サイファーは夕方まで授業があるらしいということも聞いていた。
  ガーデンに来た日に一泊したとはいえ人の部屋に勝手に入るわけにはいかないし、第一入室の為のカードキーもク ラウドは持っていない。
  だからサイファーが授業を終え部屋に戻る時刻まで時間を潰して待つしかなかったのだ。
  授業中にキーだけ受け取りに行くことも出来たけれど、サイファーは不真面目そうとはいえ学生で、真面目なクラウド的には学生の勉学の邪魔を することは憚られた。
  ということで一先ず校内に設置されたベンチでくったりと体を休めている所へ、保健室担当のカドワキが声を掛けて来たのだ。
  顔を覗き込まれ「元気がないね」と言われてつい反射的に返事を返してしまうと彼女は目を丸くし、珍しい喋るカエルに興味が出たのか クラウドはむんずと掴まれた。そしてその儘「積もる話でも聞かせておくれ」とクラウドは拉致されたのだ。
  消毒薬の臭い漂う保健室でクラウドは茶菓子とお茶を出され暫し保健室のおばちゃんとのティータイムとなった。
  彼女はガーデンに来て長く学園長の茶飲み友達であるらしい。ガーデンの生徒のことや学園長の人柄、おまけにスコールとサイファーの これまでのドンパチ模様まで聞けて、部外者でガーデン内部について全く知らないクラウドにとっては一応有意義な時間を過ごすことが出来た。
  割と長い時間居座っていた為、この日怪我を負い保健室を訪れた生徒達が一匹の愛らしいカエルが蜜柑片手にカドワキ先生とお茶を啜って まったりする姿を見たという目撃談が後に報告されることになるのだが、それはまあ置いておこう。
  そうして時間を潰し、クラウドがサイファーの部屋を訪れたのは結局日が落ちてからになった。


  コンコン、とサイファーの部屋のドアを小さく叩く者がいる。
「ああ、今開けるから待ってろ」
  サイファーの部屋を訪れる者は少なく、今日はスコールから「クラウドはあんたの部屋で預かれ」と言われ了承している為、 この訪問者があのカエルだろうとはすぐに見当が付いた。
  サイファーは椅子で寛いだポーズから立ち上がりドアへ向かう。
  ロックを解除しドアを開けてやると案の定其処にはカエルが立っていた。
「お邪魔します」
「ああ」
(……ん?)
  今、何気に普通に喋らなかっただろうか、このカエルは。
  サイファーの足元を通り過ぎてぺたぺたと部屋に入っていくクラウドを一瞬見送ってしまってから、バッとサイファーは振り返った。
「おまっ、喋れたのかよ!?」
「違う。さっき喋れるようになったんだ」
  サイファーの驚きの反応にうんざりしたようにクラウドが答える。
  声が戻ったというだけで大騒ぎされるのは情けないし、二度も同じ説明をするのは面倒だ。が、不本意ながら世話になっていることは 確かなので説明するのが礼儀だろう。クラウドは仕方なくスコールに話した内容をその儘サイファーにも話してやった。
「……はぁーん、成る程ねぇ」
  一応納得したのかサイファーは腕を組んでそう言うと、ふとクラウドの手に握られた物に目をやった。
  実は最初から気になっていたのだが、それよりも声のことで吃驚させられた為後回しになっていたのだ。
  サイファーの記憶ではクラウドを拾った時から今まで彼は丸腰だった筈なのだが。サイファーはクラウドの手元を指差して訊いた。
「で。……お前が持ってるソレは、一体何だよ?」
「……これか?」
  サイファーの訝しげな視線が自分の手の中の物に注がれていることに気付き、クラウドはふふんと鼻を高くした。
「これは俺の愛刀、バスターソードだ。昨日此処に来た時に落としてしまっていたんだが、今日探して見つけてな。良い剣だろう?」
  得意気に胸を張るクラウドが前に翳して見せた「剣」を、サイファーは手に取って観察してみる。
  最初は精巧な玩具かと思ったのだが、それにしては重さがあり、更によく見れば形状や鋭い切っ先、何よりも輝きが只の玩具とは異なっ ていた。
「お前これ……真剣じゃねえか」
「当然だ。切れなきゃ意味が無いからな」
「使えんのかよ?」
「並以上にな」
  何なら元に戻った後剣を教えてやろうか? などと言ってくるクラウドに、サイファーは小馬鹿にして返した。
「冗談。カエル剣士になんて教われっかよ。大体教わる必要なんて全く無いな。俺は強ぇ」
「お前が強いかどうかは知らないが、元に戻れば俺はカエルじゃないと言っているだろ」
「どうだかなぁ〜。戻っても実は顔とかあんまし変わんなかったりしてな。したら爆笑してやるよ」
  どうなんだぁ? とけらけら笑いながらからかってやれば、クラウドは沈黙してしまった。
「…………」
(おっ沈黙ってことはもしやほんとにそうなのか?)
  サイファーは思うが、だからと言って悪いこと言っちゃったなぁなどと反省するような殊勝さは持ち合わせていない。
  無論前言撤回すること無く勝手に話を続け「まー元が両生類顔だって落ち込むなって。人間カオじゃねぇだろ、多分!」と相変わらず 尊大傲慢極まりない態度で笑うサイファーにクラウドははぁっと溜息を吐いた。
「……失礼極まりないヤツだな。お前、友達少ないだろう」
「家来がいるからいーんだよ」
  言いながらサイファーはクラウドのストレートな物言いに物珍しさを覚えていた。
  サイファーを恐れてか、面と向かってそんなことを言ってきた者はこれまでにいなかったからだ。
  割とはっきりモノ言う奴だよなーこいつ、などとサイファーが考えていると、クラウドはやれやれと呆れたように首を振った。
「哀れだな。お前は何にも分かっていない。……つっぱって周りを見下していたって誰も認めてくれないんだぞ?」
  何だか本当に哀れむように言われると、いくら相手がカエルとはいえちょっとだけムッとするものだ。
  だがサイファーが言い返す前にクラウドがしみじみと呟いた。
「見下して嫌われたって良いことなんか無いんだ。経験談だぞ? 俺も昔外れ者だったからな」
  実は俺故郷でハブだったんだ、と切実なカミングアウトまでされたが、いや実はって言われてもそんな驚かねーよお前 きついしツンケンしてるし、とサイファーが心中で密かに返していたことをクラウドは知らない。
「いいか? 友達っていうのはな……」
  クラウドは語り出した。
「友達っていうのはどんな状況でも相手を見捨てず裏切らず助け合ってうんぬんかんぬん〜」
  ……と、まあ導入部はサイファーにとって非常に鬱陶しい説教部分(カエルに説教されるというのも……)だったのだが、話が進むにつれ てそれは面白いものへと変わっていった。
  例えばクラウドに纏る友情の話で、ぐげった時(クラウド語録で“ぐげる”=正気を失うこと らしい)は殴って正気に戻してやると言ってくれたボブ・○ップ張りの 大男の話とか、乗り物酔いの苦しみを共有したがメチャクチャ手癖の悪い盗人忍者娘がいたことだとか、娼館に売られた仲間を助ける為に女装しようと オカマとスクワット対決した男の話とか、ノリノリで女装したらそいつがエロ爺に気に入られちゃったとか、命の恩人の男はジャングル 生まれのハリネズ頭だったとか。……まあ、そんなわけの分からない話だ。
  そんなクセのある話をされてしまえばついつい耳を傾けてしまうもので。
「ふんふん、それで?」
  珍しく興味を強烈に引かれ身を乗り出したサイファーを相手に、この日面白可笑しいカエルの説教は消灯時間まで延々と続けられたのだった……。









      
サイファーとちょっと親睦。