「やあスコール、待っていましたよ」
エレベーターで三階まで上がり、ノックをしてから入った学園長室では学園長のシドがデスクから柔和な笑顔で迎えてくれた。
待っていた、と言ったのはスコールがクラウド達を呼びに行く前にシドに報告のアポイントを取っておいたからだ。
今回のことは見過ごせない重大事態だが、口だけで説明して果たして危機感が伝わるものかとスコールは考え、シドにはクラウドを実際に見せた上で説明することにしたのだ。
「報告とは一体何です? ゼルにサイファーまで一緒とは珍しい」
ついて来たゼルとサイファーにもそれぞれ声を掛け一言二言話しているが、まだシドの位置からはスコールの後ろの小さなカエルが
見えないらしい。
スコールは頭の中で今回のことを纏め上げてから、学園長、と切り出した。
「学園長の留守中にモンスターに因る異常事態が起きました。まずはこのカエ……」
ルを見て下さい、とクラウドを持ち上げようとしたスコールだったが、その手がクラウドに届く前にひょいと別の手がクラウドを
攫って行った。
「おい」
報告を邪魔されスコールはその儘の体勢でサイファーを睨むが、構わずにサイファーはそれを学園長のデスクの上にぽんと置く。
「百聞は一見に如かずだ。学園長、コレ何に見える?」
「コレですか?」
シドは首を傾げる。
「私には、カエルに見えますが。それも大層美味しそうな」
「そう、カエルだ。大層美味し……はッ!!?」
今のは幻聴か何かだろうか。
「……美味しい?」
シドを除く三人と一匹は我が耳を疑ったがシドはにこにこと続ける。
「いやぁ、何故此処にカエルがいるのかは知りませんが、昔はよく食べたんですよ? カエルは絶品でね、脚なんかは鶏のもも肉のように柔らかくて美味しいんです」
「もも肉……」
「こう、カエルを串刺しにしましてね」
シドは丁度真向かいにいるクラウドを串刺すジェスチャーをした。
「手足だけ引きちぎっても良し、丸焼きにしても良しで焚き火でこんがりと焼くんです。食べる時は皮だけべりっと剥がすと香ばしいですし、中の肉は結構ジューシーで」
「……」
「あ、ジューシーと言えば、カエルはジュースにしてもイケるんですよ! 作り方はですね、生のカエルを捕まえてきてポイっと
ミキサーに入れちゃうんです。でそのままどろどろぐちゃぐちゃになるまで混ぜると、こう真っ茶色の液体が……」
「ッ学園長!」
(誰がカエルのレシピを聞いた!!)
シドがカエルクラウドの眼前で混ぜる仕草をしたところで流石にスコールが慌てて止めに入るがもう遅い。
「上等だこの眼鏡タヌキ」
デスク上のクラウドはいつの間にかミニチュア剣を構え、距離を詰めたシドにその刃先を突きつけていた。
重々しく据わった目が殺意を宿しているのに気付いてかは知らないがシドはひっと跳び上がる。
「なっ、何!? カエルが喋った……っ!?」
「いい度胸じゃないか。この俺を食えるもんなら食ってみろ。腹の中からクライムハザードで引き裂いてやるからな」
恐ろしいことを言っているが、よく見るとクラウドの体がぶるぶると細かく震えている。
怒りというよりも、どちらかと言うと仲間が食われたというエグい話に怯えているようにも見えた。
「ちょ、ちょい待てクラウド! 学園長だってあんたを食おうなんて思ってないって!」
ゼルが必死に叫んでクラウドを止める。
「い〜や〜分かんないぜぇ? クラウド。もしかしたらお前もミキサーにぶっ込まれてカエルジュースにされちまうかも」
殆ど吹き出す一歩前といった顔でサイファーが煽った。
シドはそこまで驚かなくてもと思うような混乱の仕方でスコールを問い詰める。
「ど、どういうことですかスコール!」
いやあんたが嬉しそうに話してたカエルジュースの方がびっくりだろと言いたかったが、スコールはそれを何とか呑み込む。クラウド、と諫めて漸く彼が威嚇を止めるのを見届けてから
「シド学園長。この言葉を話すカエルですが、元々は人間です」
と報告を始めた。
「彼は一般市民でしたが、タッチミーキングという巨大なカエル型モンスターの攻撃を受けてこの姿に変えられたようです。二日前、ガーデンに救助・討伐の要請に来ました。
更に昨日、トゥリープ先生同行のGF取得試験中、炎の洞窟付近で同種と見られるモンスターによって先生とSeeD候補生二人がカエルの姿に変えられています」
「そっ、それは本当なのですか!? スコール」
「本当だよ」
サイファーがスコールの横から口を出す。
「こいつがこんなミョーな嘘吐く筈ねーだろうが」
「はぁ、まぁ、それもそうですね……。しかし、人がカエルになるとは何とも信じ難い」
困惑顔のシドに
「信じ難かろうが何だろうが俺は人間だ」
唸るようにクラウドが呟いた。一応剣は仕舞っているがまだ睨みを利かせている。
まぁ誰だってこんなオッサンに食われたくはないから警戒するのは当然だろう。
シドは暫く難しい顔をして黙り込んでいたが、漸く納得出来たのか一つ溜息を吐いてからクラウドを見た。
「………分かりました。信じ難いとはいえ、その話し方や動きは確かに人間のもののようですし、皆さんの言うことを信じます。
クラウドさんと言いましたか。大変な目に遭われたというのに、先程はお気を悪くさせて申し訳無い」
さっきまでと違い真剣な表情で頭を下げるシドに誠意を感じて、クラウドもまた「分かってくれれば」と機嫌を直し態度を改めた。
「自己紹介が遅れましたね。私がこのガーデンの学園長、シド・クレイマーです。今回の件はガーデン内にも被害が出ているようですし、
こちらとしてもそのカエル型モンスターは放置出来ません。貴方の依頼、受けましょう」
「! そうか、それは助かる」
ぱあっと明るくなったクラウドの顔に温和な笑みを返してからシドはスコールに向き直る。
「それでスコール。そのタッチミーキングというモンスターを倒せば、カエル化した人達は元の姿に戻るのですか?」
「そのようです。何れにせよこれ以上被害を出さない為に早い討伐が必要です。
クラウドを確認・案内役として此処にいるメンバーで向かおうと思いますが、今日これから直ぐに発って宜しいですか?」
「勿論です。そういうことなら直ぐにでも許可しましょう」
シドは大きく頷いてデスクの引き出しから書類を一枚取り出した。必要事項を書き加えてからクラウドに手渡す。
「ではクラウドさん、この契約書を読んで、宜しければサインをお願いします」
クラウドは渡された紙面にざっと目を通すと微かに目を瞠った。
視線の先は報酬の記載。SeeD三人を雇うには破格の安さだった。
「本当にこれでいいのか?」
クラウドが報酬について言っているのだと分かったのだろう。シドは申し訳無さそうに苦笑した。
「ガーデン生に被害があって動かざるを得ない件だというのに、お金を頂くのは心苦しいです。しかし組織というのはどうも金にうるさくて……
すみません」
「いや」
とんでもないとクラウドは首を振った。
寧ろガーデンの精鋭であるSeeDをこの値段で使っていいものかと思い、同じく契約書を覗き込んでいるスコール達の顔を窺ったが、
「安くてラッキーじゃんクラウドー!」
とゼルは全く正反対の反応を見せた。プライドの高そうなサイファーとスコールも特に気にした様子は無い。
一応ちらとスコールにアイコンタクトしてみたが、彼は「気にするな」と軽く首を振ってサインを促した。
(良い奴らだな)
彼らの厚意に感謝しつつ言葉に甘えることにして、クラウドはシドとの契約を終える。
「これで契約は成立です。では皆さん、くれぐれも気を付けて任務を遂行して下さいね」
用事を済ませ学園長室を出て行くSeeD達に、ドアの脇に立って送り出すシドは父親のような優しい眼差しを向けている。
その温かな笑顔を見つめながら、クラウドは少しだけ最初にシドに対して取った態度を反省した。
カエルをもも肉扱いしたりミキサーに掛けたりと恐ろしいオヤジだと思ったけれど、その心根は優しく慈愛に満ちた人物なのだ。
ただカエルが好物という変人なだけで、報酬を安くしてくれたり気遣いの言葉を掛けてくれたりと基本は好人物だとクラウドはシドを評価した。
が。
最後に部屋を出たクラウドの背後からドアが閉まる直前に聞こえた声に、その評価は地に落ちることになる。
「――――それにしても、本当に美味そうなカエルです」
背筋にピッと走った悪寒にぶるりと体を震わせてクラウドはシドを見直した己を激しく悔いるのだった。
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