「うっし!」
タッチミーキングが完全に動かなくなったことを確認してから、スコールとサイファーは武器を収めた。
耳を塞いで煩わしく思っていた耳栓もこれで漸く取ることが出来る。
「まーったく、あっさりカエルにされやがってよ、このチキン野郎」
耳の中を穿りながら、早速サイファーがゼルの方を振り向いて毒づいた。
「でもさすが似合ってるじゃねぇか。一生そのままでもいいんじゃねーの、お前」
「ケロッ」
サイファーの暴言に言い返そうとしたゼルだが、カエルのままの姿では全く人間の言葉が出ない。
ガーデンに来たばかりのクラウドと状況が同じだった。
「そういえば、クラウドはどうしたんだ?」
いつの間にかクラウドの姿が見えなくなっていることにスコールが気付く。
「ん? そういえば。ゼルがまだ戻らねぇってことはあいつもまだカエルのままなんだろーが」
彼の話ではタッチミーキングを倒せばカエル化は解かれるとのことだった。
ならばそろそろ人間に戻っても良い頃だろうが……。
そう思っていた矢先、カエルゼルの体からしゅーっと音がし始め、ピンク色の煙が出始めた。
(わわ、なんだなんだ!?)
混乱するゼルと一同。
そして見れば同様に、血に臥すタッチミーキングの体の一背後からも煙が浮き上がっている。
煙というよりももやに近いそれは見る間にもくもくと広がっていき辺りを包み込んだ。
スコール達がなす術なくキョロキョロ見回していると、
「魔法が解ける……」
何処かで誰かが小さく呟いた、と思った刹那、ぽんっぽんっと煙の中心で何かが二度弾けた。
「!?」
「わっ」
ゼルの短い叫びが聞こえ、スコールは煙の中を注視する。聞き慣れない破裂音に警戒を強めたサイファーとスコールであったが、その後妖しげな音は一切聞こえなくなった。
代わりに、風に流されるようにして煙がすーっと晴れていく。
薄ピンクだった視界が徐々に元に戻っていくと、次第にスコールの目にゼルの姿が見えてきた。
「よ、良かった……、人間に戻った」
上体を前に倒し心底安心した様子で息を吐いている、人型のゼル。
「魔法の解ける前兆だったのか」
不審な煙や音がその兆しだったことを知りスコールもほっと息を吐く。
「ちっ」
戻りやがったか。とサイファーが意地悪げに呟くのを耳にしながら、スコールはあることに気付く。
「ん?」
破裂音は二回。一度がゼルだとすると、もう一度の音は……。
もう一つの煙の発生源であったタッチミーキングの体のある方を見てみると、そこには見慣れない人間が立っていた。
顔は髪に隠されてよく見えないが、金色の髪。黒を基調とした服。
その人は直立の体勢で自分の両手の平をまじまじと見つめたまま感極まったように動かない。
「あんた……」
スコールはまさかと思いつつもその人物に近付いた。
この場にいる、一人だけ見慣れない男。心当たりはたった一人しかいない。
思わず声を掛けると、その人物ははっとして此方を向いた。
しかしその顔を見た瞬間に、スコールの頭は真っ白になって口から全く意図していなかった言葉が出た。
「あんた、小さなカエルを知らないか?」
「は?」
「あ?」
金髪の人物と、二人の様子を少し離れた所で見守っていたサイファーの声が被る。
「おいおい、スコール何言ってんだ?」
この場に無関係な人間がいるわけが無い。状況から見たら、どう考えてもこの人物はあのクラウドだろう。
恐らくさっき姿を消したと思ったのは、巨大なタッチミーキングの影にいた為に此方からは見えなかっただけなのだ。
「ツラが見てぇとは思ってたけど、お前がボケかます程ショックな顔なのかよ?」
薄笑いしながらスコールの肩を掴んでどかし、クラウドの顔を覗き込んだサイファーは固まった。
(び……っ)
美人じゃねェかっ!!?
透けるような白い肌に輝くハニーブロンド。海を思わせる碧眼。整った鼻筋に小振りな唇。
あどけなさの残る少年のような顔立ちなのに異様に色気がある。
サイファーの頭の中をさっきまでのカエルクラウドが嘲笑うようにぴょんぴょんと飛び回り、最後にこの美人の中へぽーんと入っていく映像
が浮かんだ。
脳裏を、昨夜クラウドに向けて言った台詞が過ぎっていく。
『戻っても実は顔とかあんまし変わんなかったりしてな。したら爆笑してやるよ』
(わ……笑えねぇ……)
無駄にキラキラしたこの生き物があの二頭身ガエルと同じとは。想像と逆すぎて笑えない。これはスコールがボケをかます訳だ、とサイファーはだらだら汗を流しながら思った。
「こりゃ、確かに違うわな。こいつはただの無関係な一般人で、あのカエルはどっかに行っちまったんだろうなって話だな」
「オイ……」
不自然に視線を逸らす彼らが何を言いたいのか分かったようで、金髪の人物は苛々と髪を掻き上げた。
「俺がクラウドだと何か悪いのか? 何なんだ二人とも、現実逃避しやがって」
元に戻った顔を見て「ああやっぱりクラウドか」とすぐに納得されるのも嫌だが、この数日でそれなりに信頼関係が出来たと思っていたクラウドとしては、全く分かってもらえないのも腹立たしい気がする。
「あんたが……クラウド」
スコールはクラウドが自ら名乗ったことによって急激に現実に引き戻された。
頭をぶるぶる振ってからもう一度、今度は恐る恐るクラウドの顔を見る。ぽっと頬を染めた。
(かわいい……)
「信じらんねぇ」
あのカエルがまさかこんな美人に変身するとは、と未だ信じられないスコールとサイファーであったが、
「ええっなになにアンタがクラウド!?って、女じゃん!!」
遅れて輪に駆け込んで来たゼルが即座に金髪美人に蹴り飛ばされるのを見て、ああ確かにこの凶暴さはあのカエルクラウドかもしれない、と納得した二人であった。
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