世界の切り札と呼ばれるLにずっと前から憧れていた。
実際に会えたその人が想像していたよりずっと若く、普通と違う変人だったことに驚きを隠せなかった。
けれど確かにその頭脳が並外れていることを知り彼こそがLなのだと知る。
捜査で手段を選ばない彼の行動に不満を覚えたこともあるけれど、それが事件解決の大きな鍵になるかもしれな
いと考えれば、彼の捜査に只倫理観から異議を唱え何もしないのはそれこそが間違いだと思えた。
『天才に倫理観が無いなんて誰が決めたんですか?』
彼に非難の声を上げた先輩に突っ掛かってしまっても後悔はしなかった。
彼は論理に脳を支配された冷血な人間などではないと感じたのだ。
彼を只の天才でなく心を持つ一人の人間として見るようになってから、目に映るものが少し変わった。
独特の座り方でお菓子を食べる姿が可愛いかもしれない。
その子供のような姿で計り知れない推理をする彼を改めて尊敬した。
勝手で人使いが荒いのに部下の意見を聞き入れ敬語で応じる彼が、人間として決して驕った人でないと知った。
行儀が悪いくせに紳士的に接してくれる意外さが素敵だった。
――探偵Lへの憧憬が彼という人間への好意に変わったその瞬間を思い出せないけれど、確かに純粋に好きだと思った。
だから、はそれが打ち砕かれた衝撃に眩暈がしていた。
「や……っ、りゅ、ざき、さ……」
仄かなルームライトの光が照らすベッドがキシキシと揺れている。
その寝台で竜崎に貫かれながらは必死で声を上げた。
何を言いたかったのかは分からない。
制止にもならない中途半端な声を、ずっと上げ続けていた気がする。
「……っ」
夜十一時、約束の時刻。
指定された部屋に赴いて寝室にいた彼に声を掛けた直後、ぺたぺたと裸足で真っ直ぐに接近してきた竜崎
に唇を奪われた。
噛み付くようにして最初から押し込まれた舌に驚いて引き掛けた身を逆に引き寄せられて、痩身に似合わない力強さで頭を
押さえられそれは続けられた。
酸素が減り余計に混乱した頭で彼の次の行動に気付くことは出来ず、一度離された体がすぐに引っ張られ
最上級の質を誇るベッドに仰向けに倒されるまで、は何も出来なかった。
「竜崎さん!」
何が起きたのか、何が起きようとしているのかを咄嗟に判断出来なかったのは、竜崎が相手ということが大きい。
普段の彼、といってもが知っている彼など彼の一割にも満たないが、それでも彼は見る限りこういったことをするようには思えなかったのだ。関心があるかどうかも今の今まで疑わしかったというのに。
女性が夜中に男性の部屋を一人訪れるという行動がどんな結果になるかは一般論として知っていたが、それが竜崎と自分の間に適用されるなどとは夢にも思わなかったのである。
「何するんです!? こんなっ、どうして突然、」
混乱して叫ぶを見下ろしながら
「突然でしょうか?」
竜崎は感情を読ませない大きな漆黒の目を静かに向けた。
「え……?」
態度に何の熱も孕まないくせにを解放する様子の無い竜崎には戸惑う。
竜崎は普段と何ら変わらない飄々とした口調で言った。
「先程貴女は私を好きだと言い、私が今夜此処に来るよう伝えると貴女は了承した。
そして実際に今この部屋にいる。然るべき過程は踏んでいます」
「ちが……踏んでません! 私は竜崎さんの返事を聞きたくて此処へ来たんです」
「では、私は貴女が好きです。これでいいですか」
「……!?」
竜崎の言葉が耳を掠めるように注ぎ込まれ、その衝撃の言葉に固まったの耳朶が柔らかく食まれた。
男の吐息と唇の感触にぞっとして思考を再開させたは首を下りていこうとする竜崎の唇から逃れようと必死で顔を逸らした。
「だ、駄目です! だってこんなことしたくて好きだって言ったんじゃ……」
「なら、私に何を求めてるんです?」
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